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咬ませ犬にされた39歳の元WBCスーパーライト級チャンプ

林壮一ノンフィクションライター
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 39歳の元WBCスーパーライト級チャンピオン、ビクトル・ポストルが、2022年2月26日以来のリングに上がり、7回KOで敗れた。対戦相手はIBFスーパーライト級13位のドミニカ人サウスポー、27歳のエルビス・ロドリゲス。元WBCスーパーライト級王者ポストルは、これで3連敗となった。

Stephanie Trapp/SHOWTIME
Stephanie Trapp/SHOWTIME

 過去に本コーナーでお伝えしたが、ポストルの前回のファイトは、ウクライナに対するロシアの軍事侵攻が始まった2日後のことだ。

 祖国で戦火に怯えながら、自身の帰りを待つ妻子に勝利を届けたかったポストルだが、キャリア初のKO負けを喫した。対戦相手はリオ五輪出場後にプロに転向し、オールノックアウトで全勝中のホープだった。プロモーターは"元世界王者"のネームバリューを利用し、ポストルを斬られ役に選んだのだ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20220304-00284205

 

 そして、今回のロドリゲス戦も同様の扱われ方だった。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 試合前、ポストルは語った。

 「実はこの試合を望んではいなかった。でも、残念ながら他に選択肢が無いんだ。結局、他の選手とのファイトは決まらず、いつまで待つ事になるか分からないからオファーを受けた。いいかい、私は間もなく40歳だ。職業はプロボクサー。自分には行くところが無い。戦うしかないんだよ。

 ロドリゲスを倒せば、世界タイトル挑戦の道が開けるかもしれない。彼とはワイルドカード・ジムで何度もスパーを重ねた。キャンプで彼を助け、彼も私に貢献してくれた。お互いを良く知っているので、何をすれば勝てるかを分かっている。どちらがより上手くやるかで、勝敗が決まるよ」

ワイルドカード・ジムのオーナーでもあるフレディ・ローチ
ワイルドカード・ジムのオーナーでもあるフレディ・ローチ写真:ロイター/アフロ

 そのワイルドカード・ジムのオーナーで、マニー・パッキャオのトレーナーとして名声を得たフレディ・ローチは今回、ポストルではなく、ロドリゲスのコーナーに付き、27歳のドミニカンをサポートした。

 試合後、勝者は言った。

 「どの試合でも常に作戦を立てている。今日は、フレディが過去にポストルを指導したことが役立ったかもしれない。すべては5ラウンドから始まった。彼の鼻を骨折させたと思った。だから6ラウンドに潰しにかかった。

 第7ラウンドは最初から仕留める気でいた。右フックを当てたら、彼は沈んだね。そしてレフェリーが試合を止めた。世界タイトルを獲る準備はできているよ」

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 6回までの採点は、ジャッジ全員が59-54でロドリゲス優勢としていた。フレディ・ローチに鍛えられたロドリゲスは、戦績を15勝(13KO)1敗1分とし、ポストルは31勝(12KO)5敗となった。

 ポストルは試合後病院に運ばれ、記者会見場には姿を見せなかった。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 ポストルがWBC世界スーパーライト級王座に就いたのは2015年10月3日。同タイトルの初防衛戦及び、WBOとの統一戦でテレンス・クロフォードに判定で敗れたのが2016年7月23日。

 今や、ヤングファイターの踏み台を宛がわれるようになったポストル。自身の勝利で、祖国を勇気付けたいと戦ったベテランの姿が、哀しく胸に突き刺さった。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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