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必読!! ~『ニッポンとサッカー』英国人記者の取材録~

林壮一ノンフィクションライター
(写真:ロイター/アフロ)

 昨年11月末に『ニッポンとサッカー 英国人記者の取材録』が発売になった。1985年生まれの英国人、ショーン・キャロル(37)が著者である。

丹念な取材が一冊にまとめられた
丹念な取材が一冊にまとめられた

 Jリーグの記者席で、彼とは何度も顔を合わせた。2009年に日本に住み始めて以来、日本サッカーを丹念に取材している。英国人の目で我が国のサッカー界が語られることは、非常にプラスだと私は感じる。

 ジーコ、岡田武史、アルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレ、バヒド・ハリルホジッチなど、サムライブルー監督の言葉や哲学を比較しながら、日本サッカーが成長するうえで欠かせないものを提示したり、日本独特の先輩・後輩について苦言を呈する内容となっている。

 また、世界一となった、なでしこジャパンを、ライバルであるアメリカ女子代表メンバーがいかに感じていたのか、といった描写も面白い。

写真:ショーン・キャロル提供
写真:ショーン・キャロル提供

 個人的に最も興味深かったのは、キャロルが日本のTV番組に出演し、"当時のベストプレーヤーを選べ"と言われた時のくだりだ。彼は浦和レッズに所属していた武藤雄樹選手を挙げた。だが、「仙台時代にそれほど活躍できなかった彼のブレイクは、予想外だった」というキャロルの考察は、発言NGとされてしまう。

 批判精神を嫌い、何事も当たり障りなく進むのが好きなジャパニーズ的発想である。提灯記事が溢れる日本の在り方に、キャロルは戸惑う。

写真:ショーン・キャロル提供
写真:ショーン・キャロル提供

 キャロルは言う。 

「僕にとって2冊目の著書です。日本の良い面、悪い面を多角的に描きたかった。サッカーだけじゃなく、文化もね。書き始めたのは2020年の春ですが、それまで取材を重ねましたから合計で15年ほどかけた作品です。

 2007年の夏休みに、初めて日本の地を踏みました。で、さいたまスタジアムで行われたナビスコカップ、浦和レッズvs.ガンバ大阪戦を見に行ったんです。とにかくピッチの美しさに目を奪われました。それで日本のサッカーに興味を持ったんです。

写真:ショーン・キャロル提供
写真:ショーン・キャロル提供

 プレミアをはじめとするヨーロッパの主要リーグは、資金力で勝負がついてしまう部分が大きいですが、日本は潤沢にお金を持つチームが必ずしも強いわけじゃない。良い指導、スカウト、ホームタウンとの関連性などで勝利するケースが見られます。そんな点が魅力的ですね。とても惹かれました。僕にとっては非常に住みやすい国ですしね」

写真:ロイター/アフロ

 サッカー発祥の地からやってきたキャロルによる日本サッカー論。労作である。皆様、ご一読ください。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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