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アルゼンチン人コーチが語った長友佑都の闘魂

林壮一ノンフィクションライター
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 実兄のピチは、あのディエゴ・マラドーナと共にワールドユース東京大会(1979年)で世界一となった右ウイング。息子は、チェンマイ・ユナイテッド(タイ1部リーグ)所属のエスクデロ競飛王。

 自身は、元アルゼンチンユース代表&ビーチサッカーアルゼンチン代表であるセルヒオ・エスクデロ。

 2019年末から、川越市のフットサル場で自らスクールを始め、今日、埼玉県のジュニアユース、トリコロールFCのコーチとして指揮を執る彼が、サムライブルーのここ2試合について語った。

撮影:筆者
撮影:筆者

 1月27日、中国に2-0で勝ったゲームはホッとしました。でも、内容は悪かったですね。連係に多くの問題が見られましたし、フィニッシュもね……。

 ワールドカップに出られても、期待できない。アジアでさえ他国を凌駕できない、普通以下のチームなんだなと、感じざるを得ませんでした。

写真:ロイター/アフロ

 でも、サウジアラビア戦は文句無しです。中国戦でメディアやファンに叩かれて、「悪い流れを断ち切りたい、いや、断ち切ってみせる!」という選手たちの気持ちが伝わってきましたよ。

 特に目立っていたのが長友佑都です。中国戦はパッとしませんでしたが、ピッチ上でのリーダーシップには頭が下がりました。

写真:森田直樹/アフロスポーツ

 声もよく出していたようですが、言葉だけでなく、プレーでチームを活気付けましたよね。ピンポイントでパスを送る。ボールを奪われたら戻る。走る。戦う姿勢を前面に出し続けました。素晴らしかったです。それがチーム全体に伝わったんじゃないかな。

 やっぱり、イタリアやトルコで何度も地獄を潜り抜けていますから、その経験が生きたのでしょう。彼のキャリアの礎となっているのは、あの鋼のメンタルですよ。

 日本のサッカーって、綺麗に綺麗にやろうとするきらいがあります。味方同士での喧嘩なんてあまり無いですよね。「文句を言うな」という教育が、社会にもピッチにも染み込んでいます。だから日本人選手って、問題だと気付いていても、揉めないように揉めないように、何も言わずにやり過ごそうとします。

 僕の国、アルゼンチンの選手たちは、しょっちゅうグラウンドで喧嘩になります。でも、それは勝つためであって、人間性を否定する行為じゃないんですよ。

 長友は、他人に対してきちんと意見を言える選手です。そういうタイプが日本代表には絶対に必要です。人にモノを申すってことは、まずは自分がきちんとプレーで見せねばならない。

 ぶつかり合いがあって初めて、チーム力が上がります。ピッチ上で先輩とか後輩とか、関係ないんですよ。

 まぁ、長友はあれだけのパフォーマンスができるんだから、もっと前から見せてほしかったですが(笑)。

写真:森田直樹/アフロスポーツ

 伊東純也も好調を維持していますね。伸び盛りと呼べるでしょう。メッシもそうですが、今日の世界のサッカーは左利きを右サイドに、右利きを左サイドに配置する傾向があります。が、伊東は右利きの右ウイング。クロスの精度が高く、それでいて、中に切れ込んで左足でもゴールを狙えます。

 長友のクロスに、伊東が中で合わせるスタイルが代表にフィットすると、もっともっと良くなりますよ。

写真:森田直樹/アフロスポーツ

 また、以前から僕は遠藤航を高く評価しています。今のサムライブルーに欠かせないキーマンですね。常に全体のバランスを取っていて、相手の攻撃の芽を摘み取ること、あるいは潰すことに長けています。ピンチを救える選手ですね。今回は、守田英正と息の合うところを見せました。ブンデスリーグで揉まれているだけあって、冷静ですよね。

 最終予選での日本代表は、ヒヤヒヤすることも多々ありましたが、ようやく勢いが出てきました。ブーイングするファンも、いいプレーをして勝てば黙ります。サッカーってそういうものです。

 この勢いのまま、オーストラリアにも勝ってほしいです。オーストラリアは波があるし、負ける相手じゃない。引き分けではなく、勝ち切る姿が見たいですね。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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