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レフェリーがダウンをスリップとし、ドローになったスーパーフェザー級10回戦

林壮一ノンフィクションライター
(C)Amanda Westcott/SHOWTIME

 22日、WBCフェザー級タイトルマッチの前座に組まれたスーパーフェザー級10回戦において、あり得ない誤審が生じた。

 第8ラウンド、サカリナ・ルーカス(ナミビア)の左ジャブ、オーバーハンドライトが、ツグスソグ・ニヤンバヤル(モンゴル)を捉える。

 次の刹那、ニヤンバヤルのワンツーを、ルーカスが深く膝を折って躱す。そしてルーカスが、左フックに合わせたカウンターの左ショートをクリーンヒットさせると、ニヤンバヤルは両手をキャンバスについた。

 しかし、レフェリーのエディ・クラウディオはスリップと判断。ダウンとは認めなかった。  

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 結局、このダウンは幻として扱われたまま、ジャッジ一人が96-94でニヤンバヤルの勝ちを唱え、別のジャッジは96-94でルーカスの勝利と主張。残る一人は95-95と、三者三様の採点でドローになる。

 試合終了直後から、レフェリーの捌きを巡って激しい論争が沸き起こっているが、間違いなく誤ったジャッジメントだ。

(C)Amanda Westcott/SHOWTIME
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 ニヤンバヤルは、2020年2月8日にWBCフェザー級王者のゲーリー・ラッセル・ジュニアに、翌年7月3日にはWBAスーパーフェザー級暫定王者のクリス・コルバートに挑んでいるが、共に判定負けを喫した。

 アフリカ南西部に位置するナミビアからやって来た37歳のルーカスは、米国のリングに上がるのがこの日2度目。勝利を盗まれた思いであろう。

(C)Amanda Westcott/SHOWTIME
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 「誰もが目にした通り、あれはダウンであり、私が勝っていた筈だ。決意を持ってリングに上がり、勝利のためにすべきことをした。試合に向けて準備もした。自分の勝利を信じているが、判定に対しては何もできない。ただ、ファンの人々は、何が起こったかを知っているだろう」

 試合後、ルーカスはそう語った。

 27時間ものフライトに耐え、米国のリングに上がったルーカスは、25勝(17KO)1敗1分けとなってしまった。

(C)Amanda Westcott/SHOWTIME
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 このファイトを見詰めたスポーツキャスターのジム・グレイは、試合直後にリングに上がり、件のシーンの再生を3度も見せながらクラウディオ・レフェリーに対して、どういうつもりか?と問い質した。が、クラウディオは「ボディランゲージであり、あくまでもスリップだ」と、自身の間違いを認めようとしなかった。「ボディランゲージ」などという言葉で、周囲の疑問を煙に巻くのが、クラウディオの手法のようだ。

(C)Amanda Westcott/SHOWTIME
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 12勝(9KO)2敗1分けとなったニヤンバヤルも、「俺が勝ったと思う。あれがダウンだとは思えない。自分のゴールは世界タイトル再挑戦だ」と、言ってのけた。

 クラウディオの不可解な働きについては、しっかりとした調査と対処が必要だ。ボクシング界にとって、マイナスにしかならないレフェリーへの処分を、即刻決めてほしいものである。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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