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今日13時5分に決勝のゴング! 金メダル獲得が期待されるフェザー級の入江聖奈

林壮一ノンフィクションライター
(写真:ロイター/アフロ)

 本日、午後1時5分にゴングが鳴る東京五輪女子ボクシング、フェザー級の決勝戦。日本代表、入江聖奈(日本体育大学3年)の金メダル獲得に期待がかかる。ファイナルの相手は、フィリピン代表のネスティー・ペテシオ(29)。

 入江とペテシオは過去に3度拳を合わせ、入江の2勝1敗。世界選手権優勝者であるペテシオに対し、入江はあくまでもチャレンジャーだと陣営は語る。 

写真:長田洋平/アフロスポーツ

 日本体育大学ボクシング部のコーチとして、入江をサポートしてきた佐藤恒雄(58)に話を訊いた。佐藤コーチは、1984年から3年連続でアマチュアボクシングで全日本王者となっている。現在は港湾関係の会社員として働く傍ら、母校の学生を支える。

写真:佐藤恒雄氏提供 1962年8月22日生まれの佐藤コーチは、昨年40キロの減量に成功した。
写真:佐藤恒雄氏提供 1962年8月22日生まれの佐藤コーチは、昨年40キロの減量に成功した。

 「私が入江の存在を知ったのは、彼女が高校1年次の12月に愛媛県大三島で開催された全日本選手権ジュニアの部で優勝した折でした。大会前、私の同期で2大会連続五輪に出場した黒岩守から『入江聖奈さんという東京五輪を狙える逸材がいるので観てください』と連絡を貰ったのが端緒です。

 その後、入江は日体大への進学を決めてくれました。素顔はシャイで不器用ですが、天与の左リードがあります。地道な練習を繰り返して技術を体得し、ボクシングに関しては非常に貪欲です。常に真摯にボクシングと向き合っています。地道な練習の積み重ねが今回の結果に繋がりましたね。金メダルを公言していましたが、無欲で一戦必勝で勝ち上がれたと思います」

写真:佐藤恒雄氏提供
写真:佐藤恒雄氏提供

 「日体大に入学して保健体育の教職をとり、実技についていけるか不安だと言っていましたが、単位は全て取得しています。彼女は、負けず嫌いで頑固な一面もあります。これは選手には必要不可欠な要素だと私は感じています。

 決勝まで勝ち上がれたのはクジ運に恵まれたのも大きいですが、決勝で対戦するネスティー選手が第一シードのリン選手(台湾)を2回戦で下した試合を会場で観戦し、刺激を受けたことも大きいでしょう。入江はネスティー選手を人間的にもリスペクトしています。過去対戦成績2勝1敗と入江が勝ち越しているネスティー選手の奮闘に刺激を受け、波に乗ったのではないでしょうか」

写真:長田洋平/アフロスポーツ

 「日体大ボクシング部の監督は30数年前からOBの浅村雅則が務めています。私がコーチとして指導するようになったのは、5年ほど前からです。

 我が部は、これまでに何度も不祥事を起こしました。しかし今日、本校のボクシング部は、選手の自主性に任せています。高校までは指導者からやらされるボクシングですが、大学生になれば自主的に選手が率先して、自身の課題を克服し、自ら出稽古を申し出なくては強くならないという考え方からです。

 入江の部内のマススパー相手は日章学園高校時代にインターハイで準優勝し、今年の世界ユースライトウエルター級代表の脇田夢叶が務めました。脇田にしてみれば、女子の相手は嫌だったでしょう。しかし、ボクシングに対する入江らの真摯な姿勢に共感し、練習相手を受け入れたと私は認識しています」

写真:ロイター/アフロ

 「私は日体大ボクシング部員に、あらゆる指導者からのアドバイスを受けることを奨励しています。一人の指導者に限ると、その指導者の色に染まります。型に嵌まってしまったら、選手は伸びません。だから、出稽古に行った際などは、スパーリング相手の指導者にアドバイスを求めることを勧めております。入江は練習ノートにアドバイスされたことを記しています。その練習ノートは膨大な量になっているそうです。

 入江には固定の指導者はいません。練習、出稽古などで関わった方々からのアドバイスを本人が採択しています。一つのアドバイスに対し、3回実践し、自分に合わなければ、そのアドバイスは受け入れる必要はないと、私は説きます。試合をするのは選手ですから」

写真:西村尚己/アフロスポーツ

 「もちろん、セコンドの後押しも重要です。が、リングで戦うのは選手自身です。日体大ボクシング部監督の浅村雅則も、試合前に選手から戦法のアドバイスを求められたら、『どうやって戦いますか?』と、選手の意見をまず聞きます。その上で、こう戦ってみては? とアドバイスします。その戦法を受け入れるかどうかは選手に一任します。あくまでも、戦法は助言であり、リングで戦う選手が試行錯誤して決めるものです」

写真:長田洋平/アフロスポーツ

 「日体大ボクシング部に強制はありません。全ての練習は選手が取捨選択し、自主性に任せています。男子16名、女子16名の部員が狭い練習場で一緒に汗を流します。

 ボクシングは身体能力を考慮すれば、男女でレベルの差が顕著です。しかし、日体大ボクシング部は男女ともに同じ練習量をこなします。もちろん、男女でスパーはしません。入江のボクシングに向き合う真摯な姿勢に男子部員も共感し、リスペクトするから、男子が入江と同じメニューをこなします。入江の活躍に男子部員が刺激を受け、関東大学リーグ戦一部復帰の起爆剤となれば嬉しいですね」

写真:長田洋平/アフロスポーツ

 「高校野球で甲子園出場を決めた無名高校が大会を通して成長し、4強、決勝まで進出するように、入江も東京五輪で試合を重ねるうちに、技術的にも精神的にも成長し、ファイナルの舞台に上がるように見えます。

 日常の地道な練習を積み重ねた努力があり、運も味方につけたのでしょう。そのひたむきな姿を知る気まぐれな勝利の女神が微笑んでくれたのかもしれません。決勝でも、彼女らしい戦いを披露してくれると信じています。

 日本の皆様、どうかご声援、よろしくお願い致します」

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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