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高山勝成のWBOライトフライ級タイトル挑戦を振り返る

林壮一ノンフィクションライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 現地時間5月8日、2階級制覇を目指す高山勝成が、エルウィン・ソトの持つWBOライトフライ級タイトルに挑んだ。結果は9ラウンドTKO負けだった。

 会場となったAT&Tスタディアムは、NFLダラス・カウボーイズのホームであり、7万3126の観衆で埋まった。高山のファイトは、サウル・“カネロ”・アルバレスvs.ビリー・ジョー・サンダースのWBA/WBC/WBOスーパーミドル級王座統一戦のセミファイナルとして組まれた。

中出トレーナーと高山 写真:中出氏提供
中出トレーナーと高山 写真:中出氏提供

 試合後、高山との二人三脚を続ける中出博啓トレーナーに話を聞いた。

 「今回は、約3週間前という急なオファーでしたが、今の立ち位置と残り時間から目標であるWBAのタイトルへの接近が難しいと考え、簡単な調整では無いですが、WBO奪取で統一戦に持ち込まないと埒があかない。チャンスを前から掴む気持ちでオファーを受けました」

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 「ソトと高山には体格差を感じていたので、①ジャブをハードに。②足を止めずコンビネーションで攻める。③必要以上に打撃戦に付き合わない。という作戦を立てました。ソトは沢山の引き出しのある選手には見えませんでした。素早い動きで撹乱して、ポイントを稼ぎたいと思いました」

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 「実際試合が始まってからのソトの印象ですが、比較的ブロックを多用したガードである。打つべき距離でジャブを使うよりは、ブロックで距離を作り、足場を固めてから左フック、右フックにアッパーを打ってくる選手だなと。あまりジャブやノーモーションの右やカウンターといった引き出しは無く、シンプルな攻撃パターンの選手に見えました」

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 初回、ワンツーを喰らった高山はグラついた。が、手を出し続け、自分のボクシングを貫く。とはいえ、パンチ力には大きな差があった。ポイントもチャンピオンがリードしていた。

 セコンドとしての戦略を訊いた。

 「3週間で作れるコンディションとしては、かなり上手くいきました。が、フィジカルの強化合宿は出来ず、更に関西エリアでのコロナの急速な蔓延の為、スパーを極力避けたので、殆ど出来ずでした。その為、試合の前半に実戦の勘を取り戻す為、速いジャブでコントロールしながら、攻撃を展開するポジショニングやアングルを探し、中盤を凌いで後半に残った体力とスピードで勝負に出る予定でした。

 パワー勝負は、避ける必要がありましたが、やはり1発のパワー差は感じました。ボディに狙いを定め、体力を奪いにかかり突発口が見え始めたところでのストップでした……。特に距離が合えば、鋭いジャブを抜け目なく打ちながらコンビネーションに繋げるという指示を出しました」

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 その、後半勝負に出ようとした矢先の9ラウンド2分44秒に、レフェリーストップ負けを喫した。納得のいかない高山は、リング上でシャドーを披露し次のように語った。

 「スタミナも十分残し、ダメージも少ない中、思わぬところでレフェリーストップとなり、驚きました。ソト選手のパンチは、芯を外していました。そのことを示すために行った試合終了後の私のシャドーボクシングに対する観客の大声援に感謝します。試合結果としては残念ですが、次戦につなげます」

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 米国のSNSでは「ストップが早かった」と、レフェリーに罵詈雑言を浴びせる声と共に、24歳のチャンピオンに果敢に向かっていった37歳の挑戦者を称える書き込みが目立つ。「リマッチを用意すべきだ」との文字も少なくない。

 再び、中出の言葉。

 「高山は、良く短期間調整に耐えたと思います。まだまだファイト出来る余裕がありながらのストップは残念ですが、良くやったと思います。ただ、もう時間が無い事も感じています。持ち味であるスピードと両立する為、年齢に無理の無い科学的なフィジカルトレーニングが必要ですね。やはりまずは、筋肉量を増やしたいですが……」

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 「高山は海外での世界戦もこなしましたし、大観衆も経験しました。しかし今回は、興行規模として桁外れなものでした。大観衆の前で日頃の練習の成果を出せる舞台があるのは幸運だと思います。素直にこの時代の厳しい興行の問題や、日本での競技人口の事を考えると……楽しい時間でした。

 最後に、私は高山を誇りに思います」

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 過去に何度か、高山を本コーナーで取り上げたことがある。彼は引退後、教師になりたいと話した。

https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20190116-00110592/

https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20190815-00138256/

https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20190930-00144598/

 今回の敗戦も、人間としての高山を大きくするに違いない。悔いなき現役生活を送り、教壇でも自分らしい闘いを見せてくれ。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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