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38歳にて、4年3カ月ぶりのNBAカムバック

林壮一ノンフィクションライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 試合の残り時間は6分37秒となっていた。現地時間5月5日、クリーブランド・キャバリアーズは、92-119でポートランド・トレイルブレイザーズにビハインドを負っていた。

 そんな場面でキャブスは、背番号17の大ベテランを投入した。4148名の観客からどよめきと歓声が起こる。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 背番号17のアンダーソン・ヴァレジャオがNBAのコートに立つのは2017年2月2日以来、キャブスのユニフォームを着るのは2016年2月11日以来のことである。

 身長211センチのセンターであるヴァレジャオは、ブラジル人だ。祖国、そしてスペインを経て、2004年にNBA入り。12シーズンをキャブスで過ごした。"KING"レブロン・ジェームズとも8シーズンを共に闘った。

KINGのチームメイト時代
KINGのチームメイト時代写真:ロイター/アフロ

 しかし、キャブスが悲願のVを飾った2016年、ヴァレジャオはトレード要員として放出されてしまう。移籍先のゴールデンステイト・ウォリアーズでも、同チームがNBAチャンピオンとなる直前に首を切られた。

 NBAを去った彼は、祖国のフラメンゴで20カ月プレーし、その後は自宅のガレージでトレーニングを続けて「復活の日」を目指した。コロナ禍で活動ができない期間も、ひたすら未来を信じた。

 そしてこのほど、38歳にして古巣であるキャブスと10日間契約を結び、コートに戻って来たのだ。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 ヴァレジャオは4本のシュートを打ち、全てを外した。が、6リバウンド、1アシストをマークし、1本のフリースローを決めた。得点の際には、客席からスタンディングオベーションが起こった。

 試合後のZoom会見で、ヴァレジャオは「クリーブランドは自分にとって特別な地。クラブもファンも本当に素敵だ。心から愛してるよ。僕は、どんな時でもゲームへのリスペクトを忘れたことはない」と白い歯を見せながら語った。

 そして「まだ幼い娘が、自分の仕事を理解してくれたんじゃないかな」とスマホ内の動画でベビー服を着た愛娘の姿を披露した。

2005年1月13日、22歳の頃
2005年1月13日、22歳の頃写真:ロイター/アフロ

 試合前日まで、キャブスはヴァレジャオの背番号を18と発表していたが、かつてと同じ17番を着けたところに、古くからのファンは快哉を叫んだ。

 対戦相手であるブレイザーズのベテラン、カーメロ・アンソニー、エースのデイミアン・リラードも「Welcome Back!」と声を掛け、彼のカムバックを祝福した。

 2010年初春、私は彼をインタビューしたことがある。

 「ご存知のようにブラジルではサッカーの方が盛んだよね。僕も少しやっていたけれど、バスケ愛の方が強かった。まぁこの身長だから、すぐに活躍できたしさ」

 と笑っていた。

 当時のキャブスは"KING"レブロンと、シャキール・オニール、そして陽気なヴァレジャオが良い雰囲気を作っていた。

 Zoom会見でのヴァレジャオの笑顔を目にしながら、この復帰戦までに彼がどれほどの血の汗を流したのかが、垣間見えたように思った。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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