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コロナ禍と戦う元日本ジュニアフェザー級チャンピオン

林壮一ノンフィクションライター
写真:山口裕朗

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、飲食業界が窮地に立たされてから1年が過ぎた。元日本ジュニアフェザー(現スーパーバンタム)級チャンピオン、岩本弘行(64)が板橋区大山に構える自身の店「鮨処 いわ本」も決して例外ではない。

 ※彼の経緯については、過去の記事をご覧ください。

https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20200925-00199254/

 「飲食店は厳しいですよね。みんな苦しいでしょう」

 帝国データバンクが今年の1月6日に発表した、2020年の飲食店事業者の倒産件数は780件。過去最多だという。

撮影:著者
撮影:著者

 そんな今、岩本が思い出すのは現役時代のリングだ。日本ジュニアフェザー級タイトルを通算10度防衛した彼は言う。

 「私は苦しい時こそ前に出ました。4回戦の頃は特にそうです。どちらかと言えばスロースターターだったので、ファーストラウンドのポイントを失うことが多かった。だから新人時代は引き分けが多いんですよ。

 でも、キャリアを重ね、前に出るからこそ挽回できるんだということを学びました」

 岩本を指導していた故松本清司トレーナーも「劣勢の時は前に出ろ。そして、打った後に必ず躰を振れ。同じ場所にいるな」と言った。

撮影:著者  「鮨処 いわ本」の場所は東京都板橋区大山東町56-10
撮影:著者  「鮨処 いわ本」の場所は東京都板橋区大山東町56-10

 「今、その時の気持ちを思い出します。10回戦になってからは、試合の度に7~10日間の合宿に行って、徹底的に走り込みました。でも、それが直ぐに効果として表れるわけじゃない。

 冬場に走れば、夏を乗り越えられる。今日の努力が実になるのは3カ月後、半年後、あるいはもっと先だったかもしれません。でも、今を頑張れない選手に先は無いと信じて、日々のジムワークや、ロードワークで電信柱を2つ置きにダッシュする事などを続けました。私の場合は、それが日本王座に繋がったと思っています。やはり、継続は力なりですよ」

撮影:著者
撮影:著者

 「ボクシングと同じで、人生も山あり谷ありですよね。負けた試合が蘇ります。そこで反省して、次の試合を見据えました。キツいのは自分だけじゃないから『また頑張ろう』『人に勝つんじゃなく、自分に勝とう』『辛いことから逃げてはいけない』と自分に語り掛けています。

 私は15歳の時からボクシングしかやっていません。15で人生を決め、決めたからにはやる! という気持ちで、中途半端にならないように進んできました。この店も同じです」

 握った鮨に込められたチャンピオンのファイティングスピリッツは、今尚、健在だ。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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