米国サッカー界も若き才能が祖国を離れるようになった
先日、『ニューヨークタイムズ』紙に面白いサッカー記事が載った。
10年前にブラジルの名門、FCサントスの副社長を務めていたアンドレ・ザノッタが、ここ数カ月、フランス、ベルギー、ドイツ、セビリア、スペイン、そしてイタリアのクラブ関係者から頻繁に連絡を受けているという。
サントス時代にネイマール、その数年後にグレミオのアルトゥールをFCバルセロナに移籍させた手腕を買われているのだ。
ご存知のようにブラジルの有望選手は10代でプロとなり、国内で実力を示した後、早い段階でヨーロッパに渡ってビッグクラブと大型契約を結ぶ。
ザノッタの現在の肩書は米国MLS、FCダラスのテクニカル・ディレクター。米国のサッカー選手は、NBAやNFLと同じように大学で活躍してからプロになるケースが多かったが、ザノッタによってブラジル式が普及しつつある。
2021年に入り、FCダラス期待の星であった19歳の右のサイドバック、ブライアン・レイナルドをセリエAのASローマに移籍させた。レイナルドはMLSで27試合しか出場していないが、将来性を買われたのである。
「ローマはレイナルドのテクニックと運動神経の高さを評価し、十分、ヨーロッパのトップリーグでやっていける素材だと判断したんだ」とザノッタは胸を張る。その際の移籍金は少なくても110万ドルであると同記事に書かれていた。
またザノッタは、MLS、ニューヨークシティーFCの18歳DF、ジョー・スカリーをドイツのボルシア・メンヒェングラートバッハへ、フィラデルフィア・ユニオンの20歳MF、ブレンデン・アーロンソンをオーストリアのレッドブル・ザルツブルクへ、同21歳のDF、マーク・マッケンジーをベルギーのK.R.C. ヘンクへ移籍させた。
彼らがヨーロッパに飛び立つ前、同年代のジョシュ・サージェント(20)はMLSを経ずにブンデスリーガーとなっている。18歳にしてヴェルダー・ブレーメンの下部組織に入り、その年にトップ昇格を果たしたのだ。
今や、米国代表の10番を背負う22歳のクリスチャン・プリシッチも、ボルシア・ドルトムントの下部組織で育ち、トップチームに引き上げられた。ブンデスリーガを経て、現在はチェルシーでプレーする。
同じく22歳の米国代表MF、ウェストン・マッケニーはFCダラスのアカデミーで研鑽を積み、U20米国代表時にシャルケの下部組織に移籍。トップに昇格した後の2020年、ユベントスの一員となった。
「サッカーが根付かない国」と言われ続けたアメリカ合衆国も世界の流れに追いつて来た感がある。MLSは縦に速く見応えがある。一般の日本人が考えているよりもサッカーの質は高い。
<大学を卒業してからでは遅い。金の卵はなるべく早くヨーロッパで活躍させる。逸材は本場のビッククラブに売って、MLSも潤うようにもっていく>
そんな流れが出来つつある。
本場で揉まれた若き才能が集結すれば、米ナショナルチームの強化にも結び付くだろう。ロシアW杯を逃したアメリカは、前回の反省を生かしている。カタール大会では出場切符を捥ぎ取ることが出来るか?