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この1カ月で大きな成長を見せた渡辺雄太

林壮一ノンフィクションライター
NBAで3年目となる(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 1月11日の時点で、今シーズン5試合に出場していたトロント・ラプターズの渡辺雄太。トレイルブレイザーズ戦で、私の住むポートランドにやって来たが、残念ながら出場時間はなかった。

 https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20210113-00217245/

公表サイズは2メートル6センチ、98キログラム
公表サイズは2メートル6センチ、98キログラム写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 この時、渡辺の父である英幸氏は、次のように語っていた。

 「出場無しというのは、雄太の立場では日常茶飯事です。出られない悔しさを蓄え、前の試合で出来なかったことを反省し、練習して、いつも闘える態勢を整えてまた次の試合に臨むことの繰り返しです。

 必ずまたチャンスがあるでしょう。が、雄太の今の立場ではそう何度も巡ってくる訳ではない筈ですから、次の試合で、必死のディフェンスとアグレッシブなオフェンスでチームに貢献しないとその先の未来は拓けないと思っています。

 世界最高峰、世界最難関に挑戦している訳ですから、上手くいかなくて当たり前。更に努力していくしかないですね。

 まだロスターの末尾にいる現実は変わっていません。今こそ、この2年間の悔しさを思い出し、また出来なかった部分を反省して、活かしていってほしい。彼の今後のNBA人生は、この先の数試合の出来にかかっていると言っても決して過言ではないと感じています」

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 幼少期からバスケットボールの手解きを受けた父の言う「この先、数試合の出来」は、NBAにおいて渡辺の存在感を確実に上げた。

 アメリカ国民のほぼ全員が注目するスーパーボウルのキックオフ90分前から行われたオンライン会見(2月7日)までに、渡辺は出場ゲーム数を17とし、合計で207分、1試合平均12.2分プレーしている。総得点は56、リバウンド52、アシスト6。相変わらず、ディフェンスの評価は高い。

 この間、ラプターズはウクライナ人センターのアレックス・レンを解雇し、2月7日の段階で10勝13敗の東地区9位。レンは、私が現場で目にしたトレイルブレイザーズ戦が、ラプターズの選手として最後の出場となった。

 渡辺が生き残ったと言い切るのは尚早だが、サバイバルを味わいながら着実に歩を進めている。 

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 渡辺は2月7日のオンライン会見で言った。

 「試合に出てはいますが無観客試合が続いていますし、インタビューもこのようにZOOMで行われているので、何かが大きく変わったという感覚はありません。

 僕は17ゲームの出場くらいで満足する人間ではないんです。もっともっと成長していきたいです」

 渡辺は翌8日に、自身の古巣であるメンフィス・グリズリーズとの試合を控えていた。

 「僕自身がやることは変わりません。ディフェンス、ハッスルプレー、リバウンドなど、プレーで信頼を得て来たことを集中してやるだけです」

昨シーズンまでの2年間は、メンフィス・グリズリーズでプレー
昨シーズンまでの2年間は、メンフィス・グリズリーズでプレー写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 マイケル・ジョーダンの成功にはスコッティ・ピッペンの存在が不可欠だった。今日、西地区7位のブレイザーズを牽引するデイミアン・リラードは、ケガで離脱中のCJ・マッカラムがコートにいないことを嘆く。"KING"レブロンも、NBAでの初Vを成し遂げるために、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュと同じユニフォームを着た。

 渡辺にとって、ラプターズで最も己を活かしてくれる選手は誰なのか? と私は質問した。

 ラプターズの背番号18は答えた。

 「う~ん……。結構自分は誰と出ても、それなりに上手くやれるというか。この人が良い、この人が苦手みたいな意識は無いので、どういうラインナップで出ても変わりません。特にディフェンスから入る選手ですし。

 今、ラプターズはチームとして非常にケミストリーがいい状態です。なので、誰と一緒に出ても、やり易いです。ですから、言ってみれば全員ですね。皆、仲も良くて、ウチにはカイル(ロウリー)だったり、フレッド(ヴァンブリート)だったり、パスカル(シアカム)だったりと、素晴らしいリーダーがいますから、そういうチームって凄く強いと思います。彼らのリーダーシップに僕たちもついていって、どんどんチーム力が上がっていることを感じます。本当に、素晴らしいチームの一員になれたな、と思います」

ーーーでは、ラプターズで最も学んだことは何でしょうか?

 「ラプターズはこの数年間上位をキープしているチームで、2年前には優勝もしていますから、チームとして勝利のメンタリティーを持っています。練習中から、全員が勝つことに貪欲です。

 今シーズンの勝率はまだ良くありませんが、負けている時でも最後まで皆で鼓舞したり、勝利に向けて話し合いながらやっています。グリズリーズにそれが無かったという訳じゃないんですが、ラプターズにはウィニングカルチャーがあるな、と思います」

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 渡辺の話しぶりは知的であり、佇まいも凛としていた。世界最高峰の場にいるからこそ、プレーヤーとしても人間としても成長する。更なる飛躍を期待したい。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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