WBOスーパーバンタム級チャンピオンの姿から思い出された伝説の王者
米国東時間1月13日の13時より、SHOWTIMEとPremier Boxing Champions Event社の進行によって、23日に催されるWBOスーパーバンタム級タイトルマッチに関するオンライン会見が開かれた。
出席したファイターは、チャンピオンのアンジェロ・リオ(20戦全勝9KO)と指名挑戦者であるステファン・フルトン(18戦全勝8KO)の2名。
同タイトル初防衛戦を迎えるリオは、浴びせられる質問に対して、次のように応じていた。
「素晴らしいファイトになるよ。フルトンも俺も打ち合いを望むが、スタイルは異なる。西海岸vs.東海岸の打ち上げ花火みたいな戦いになるだろう。2021年の最優秀試合になるレベルさ。試合当日が待ち遠しい。
ラスベガスのオッズでは、僅かながらフルトンの勝利を唱える人が多いようだね。彼はファンが多いから、その点について特に驚きはない。過去にも劣勢を予想されたことがあるけれど、それが俺の導火線に火を点けてくれた。
フルトンがいい選手だってことは分かっている。でも23日は俺が世界チャンピオンとなった理由を示し、自分自身を証明してみせる。これまでボディショットを多用し、プレッシャーをかけるスタイルでやって来たし、それを隠そうとは思わない。今回もボディは狙うよ。
が、今までにない俺をお見せする。
(プロモーターである)メイウェザーからは、ゲームプランを固めておけ、と言われた。2日前にジムで会ったよ。そして、勝利に結び付く為のポイントをアドバイスされた。
ずっと世界チャンピオンになりたかったし、今、ベルトを持っている。だからこそ、今の俺は、王者に不可欠な自信を持っている」
WBOスーパーバンタム級王者の言葉を耳にしながら、私も「挙手ボタン」をクリックした。
リオが生まれ育ったニューメキシコ州アルバカーキは、3階級制覇王者のジョニー・タピアの故郷だ。IBF/WBOスーパーフライ級、WBA&WBO統一バンタム級タイトル、そしてIBFフェザー級タイトルを獲得したタピアだったが、薬物に溺れ、 2012年5月27日に45歳で短い生涯を閉じた。
タピアは8歳で、最愛の母を失っている。シングルマザーとして後のチャンピオンを養っていたタピアの母親は、レイプされた後、スクリュードライバーで滅多刺しにされた。病院に運ばれはしたものの、手の施しようが無い状態であった。刺された回数は26回とも、27回とも言われている。いずれにしても凄惨な殺され方だった。
プロボクサーとして栄光を掴んだものの、タピアは母の死を乗り越えられなかった。心の傷を癒すには、ドラッグしか無かった。何度も収監され、薬物を断ち切れないまま人生を終えた。
世界戦を間近に控えた選手に対し、こういった会見では次の試合に向けた心境や調整、作戦、何ラウンドのスパーリングをこなして、このファイトのテーマは何か? 等のクエスチョンをぶつけるのが常だ。
だが私は、アルバカーキ出身であるアンジェロ・リオが、ジョニー・タピアについてどういった印象を持っているかが知りたかった。
司会者が「もう2名くらいで質問を締め切ります」と言ってから暫くして、私の名が告げられた。
私はパソコンの画面に向かって言った。
「チャンピオンのアンジェロにお訊きします。ジョニー・タピアに対して、特別な感情を持っていますか?」
するとWBOスーパーバンタム級チャンピオンは答えた。
「ジョニー・タピアはアルバカーキの誇りであり、喜びでした。我々の土地から生まれた偉大過ぎるファイターの一人であり、彼の名は尊敬と共に語られます。素敵な人であり、カリスマ性を持ち、誰に対しても愛を見せましたね」
次の瞬間、タピアをインタビューしたくて、何度も彼の事務所とやり取りをしていた30代の日々が思い出された。アポが決まりそうになる度に、彼が薬物乱用で逮捕されてしまって、白紙となった。
タピアの死を知った日も、ネットで見た彼の葬儀の様子も蘇った。
同時に、リオを通じてアルバカーキにボクシング熱が再燃焼すればいいと思った。
いつか、タピアの墓を訪ねたい。