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才能を活かせず、初回1分56秒で沈んだ元世界ミドル級4位

林壮一ノンフィクションライター
Photo: Sean Michael Ham/TGB Promotions

 27戦全勝24KOの戦績を誇り、一時は将来を期待されていたサウスポー、ジェームス・カークランド。全盛期のカークランドは、WBOミドル級4位にランクされていた。

 しかし2009年3月から2年間、ブランクを作る。強盗の罪で収監されたのだ。カークランドは銃の不法所持でも実刑を食らうなど、ボクシングに集中することが出来ない男だった。

 出所後、一刻も早く世界戦線に戻りたいカークランド陣営は、復帰戦から36日の間に3試合というスケジュールを組んだ。

写真:ロイター/アフロ

 2011年4月9日、石田順裕に3度倒されて初回KO負けを食らったのは、復帰3戦目のことである。焦りが裏目に出た。

 カークランドは石田戦で初黒星を喫しただけでなく、自分のボクシングを壊されてしまう。

Photo: Sean Michael Ham/TGB Promotions
Photo: Sean Michael Ham/TGB Promotions

 そんなカークランドが2020年最後の土曜日に、36歳にしてリングに上がった。

 対戦相手は、21勝4敗2分けのメキシカン、ファン・マシアス・モンティエル。21の勝利全てをKOで飾っている26歳で、アメリカデビューを飾ってから2戦目のファイトであった。

Photo: Sean Michael Ham/TGB Promotions
Photo: Sean Michael Ham/TGB Promotions

 立ち上がりから、カークランドはアグレッシブに前進してプレッシャーをかける。コンディションは悪くなさそうに見えた。

 が、開始30秒で、モンティエルの狙い澄ました左フックを浴びてダウン。

Photo: Sean Michael Ham/TGB Promotions
Photo: Sean Michael Ham/TGB Promotions

 モンティエルはサウスポー対策を十分にしており、右ストレートを効果的に浴びせる。カークランドをコーナーに詰めると顎へのアッパーをダブルで見舞い、決定的なダメージを与えて再びダウンを奪った。

 かろうじてカウントエイトで立ち上がったカークランドだったが、更に左アッパーを顎に、返しの右ショートストレートをクリーンヒットされ、キャンバスに沈んだ。

 ノックアウトタイムは、第1ラウンド、1分56秒。

Photo: Sean Michael Ham/TGB Promotions
Photo: Sean Michael Ham/TGB Promotions

 勢い付くモンティエルは今後が楽しみな選手である。一方で、いいモノを持っていたにも拘わらず、己を律することが出来ずに、咬ませ犬となったカークランド。その様を目にしながら、マニー・パッキャオのトレーナー、フレディ・ローチの言葉を思い出した。

 「マニーのように才能に恵まれ、弛まぬ努力を続けられる者がスーパーチャンプになれる。時々、才能に欠けていても、努力で世界を獲る男もいる。でも、自分に勝てない人間、ボクシングに集中できない人間は、絶対に世界王者にはなれないよ」

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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