元世界ヘビー級チャンプが語る、新政権のアメリカ合衆国
2021年を迎える5日前、元WBC、WBAヘビー級チャンピオンは63歳になった。
彼の故郷であるペンシルバニア州フィラデルフィアの自宅に電話を掛けると、娘の為に朝食のパンケーキを焼いているところだった。
相変わらず、優しきパパである彼の姿を目にして、心が温かくなった。
3人の娘と息子の計4名を、”男手ひとつ”で養ったティム。彼が子供たちの養育費を稼ぐには、リングに上がるほかに道が無かった。
45歳まで現役を続け、その年齢で世界9位にまで再浮上した実力者だった(※詳しく知りたい方は、是非、拙著『マイノリティーの拳』(光文社電子書籍)をご覧ください)。
とはいえ、最終戦のひとつ前、2002年9月22日の一戦では激しく打たれ、5回KO負けを食らった。
50代となり、息子と娘の教育が最重要課題となっている私は、あの頃のティムが子供たちのためにどれだけの思いで生きていたのかが、密着取材していた頃よりも理解できる。
そんな彼と、互いに健康な状態で新年の挨拶が出来たことを素直に喜んだ。電話口でティムは言った。
「もうすぐ、合衆国はジョー・バイデンがホワイトハウスに入り、新政権がスタートする。今更、トランプを叩いても仕方ない。時間の無駄ってもんだよ。そんな事よりも、家族を守り、隣人たちと友好な関係を築き、問題を抱えた世界中の人々と手を取り合って互いに支え合うことが大事だ。
自分は民主党支持者だとか、あんたは共和党を支持するんだねとか、そんな論議も必要ない。助け合う世の中を創らなければいけない。
一人のアメリカンとして何が出来るか? 年老いた両親のために如何に働くべきか。それが平和に繋がるよな。
昨年生じた警官の黒人への暴行などで命を落とす人を、これ以上出してはいけない。俺も数々の差別を味わったけれど、本当にもう沢山だ。
ネガティブな感情は捨てて、新たな年を地球全体で一緒に祝いたい。新型コロナウイルスとの戦いにも勝ち、素敵な社会を作りたいね。バイデン新大統領が、アメリカ合衆国を美しく建て直してくれることを心から祈るよ」
現役時代、「黒人を差別する黒人プロモーター」に人生を目茶苦茶にされたティム。苦い過去を乗り越え、今はBLACK LIVES MATTERのデモ行進に加わる。その一方で、ボランティアとして孫の遠足に同伴する。
「お前の文章を通じて、俺のメッセージを読んでくれる日本の方々にも『Have a wonderful 2021!!』って伝えてくれ!」
新春早々、パソコンの画面を通じて爽やかな風を浴びたように感じた。