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リング禍を乗り越えた16勝(16KO)1敗のプエルトリカン 

林壮一ノンフィクションライター
Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME

 2019年7月19日、13戦全勝13KOのプエルトリカンと、13戦全勝11KOのロシア人のスーパーライト級戦が催された。先日、統一ライト級王座に就いたテオフィモ・ロペスvs.中谷正義戦と同じ興行であった。

 最終ラウンド開始前、ロシア人、マキシム・ダダシェフのチーフセコンドが棄権を申し入れ、プエルトリカン、サブリエル・マティアスが勝者となった。

 リングに崩れ落ちたダダシェフは直ぐに病院に搬送され、脳の腫れを抑えるべく開頭手術を受ける。

 しかし、4日後に還らぬ人となった。

 

 哀しみを引き摺りながらリングに上がるマティアスは、今年2月にキャリア初の黒星を喫した。

 去る24日の試合も心理的ダメージが懸念されたが、7回TKO勝ちで再起を飾る。これでマティアスの戦績は16勝(16KO)1敗となった。

Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME
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 マティアスは言った。

 「負けを味わい、ジムでの練習内容が変わった。敗れた理由は、やるべきことをやっていなかったから。(今日の相手)マリク・ホーキンスはパンチが無く、俺にダメージを与えられなかった。ファーストラウンドで、ヤツが非力なことが分かった。だからひたすら前に出て、ホーキンスを痛めつけた」

Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME
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 とはいえ、1ラウンドは3名のジャッジ全員がホーキンスにポイントを与えている。

 その後、マティアスは得意の左フックを間断なく上下に放ち続けた。手数もクリーンヒット数もマティアスが優勢であった。

 やがて、ホーキンスの右目は塞がっていく。

Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME
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 そして第6ラウンド、左フックでダウンを奪う。ホーキンスがレフェリーからカウントを数えられるのは、デビュー後、初のことであった。 同ラウンドまでの採点は、ジャッジ3名とも59-54でプエルトリカンのリードとしていた。

Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME
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 28歳のマティアスは、満面の笑みを浮かべながら続けた。

 「俺は誰とだって戦うぜ。早く世界タイトルに挑みたいね」

Photo:Amanda Westcott/SHOWTIME
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 勝つことでしかマキシム・ダダシェフの無念を晴らせないことを、マティアスは悟ったようである。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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