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ボクシング界随一の豪傑、71歳になったジョージ・フォアマンの言葉

林壮一ノンフィクションライター
1994年11月5日、マイケル・モーラーをKOして45歳でヘビー級王座に返り咲き(写真:ロイター/アフロ)

 ジョージ・フォアマンのニックネームであるBIGは、単に体のサイズではなく、人間としての器の大きさの意が含まれる。フォアマンは確かに強いファイターであったが、その人間的魅力を際立たせているのは生き方だ。

 45歳で世界ヘビー級王座に返り咲き、財を成した彼は、地域の為にそれを惜しげもなく使う。かつての己のように将来が見出せず、ストリートで暴れている若者を、自ら築いたユースセンターで引き受けている。ハリケーンで家屋を失った人々にも、そのユースセンターを避難所として使ってくれと扉を開け、食料や簡易ベッドを用意する。

 https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20180606-00085071/

撮影:著者
撮影:著者

 獰猛なファイターに見えたフォアマンが"生まれ変わった"日を振り返った。そして、新型コロナウイルス感染症がパンデミックとなった現状について語った。

 「43年前の3月17日、私は叫んだ。『ジーザスがここにいる!私の傍にいる!!』って。プエルトリコ、サンファンでジミー・ヤングに負けた後の控室でのことさ。それまで宗教は、人生の敗者や貧しい人間たちが縋るものであって、自分の弱さを認め、頭をスッキリさせるものくらいにしか感じていなかった。

 でもあの夜、私は一度死に、そして生き返った。自分の頭から血が流れ、手にもべったりと真赤な血が着いていた。私は、『ジーザスがここにいる。私の傍にいる!!』と何度も何度も繰り返した。以来、ジーザスのために生きることを決めたんだよ。

 今日、世界中の様々な場所で、当時の話をしている。何人かは信じられないって奇異な表情をこちらに向けて来る。でも、実際にあったことなんだ。だからこそ、自分の教会でも同じ話を頻繁にするのさ」

撮影:著者
撮影:著者

 「新型コロナウィルスが拡がる今も、ジーザスと自分との関係性や、私の役割を多くの人に伝える義務があると思っている。信仰こそ自分の人生にとって、最も大事なものだと自信を持って言えるよ。”信じること”が、私に幸せをもたらしてくれるんだ。

 

 今は、笑ったり、何かを批評したり、復讐する機会を探す時じゃない。目を開き、天の恵みをしっかりと見なければいけない。私がボクサーだった頃、一つ一つ勝利を挙げる度に、両親、きょうだい、恩師たちに感謝した。地域や国にも喜びを分け与えたかった。一方で、敗北した際の要因は私にあった。"彼らが"という言葉を使うのは恐ろしく、けっして私の人生をを上向きにはしなかった」

撮影:著者
撮影:著者

 「私には愛と慈悲という名の予防接種が必要だったし、今でも必要としている。愛と慈悲があるからこそ、人類の何に対しても寛容でいられるんだ。どうか、神を意識してみてほしい」

 今のところ、私が神の存在を感じたことは無い。が、フォアマンの姿に感銘を受けたことは何度もある。フォアマンが自らの成功を故郷に還元するのは、神に与えられた自身の役割を遂行しようと努めているからだろう。

 ここ数週間、東京五輪を開催するか延期するかを巡って、人間の醜さが目に留まった。選手の気持ちやコンディションは度外視し、金勘定しか出来ない輩には、フォアマンの行動など決して理解できないであろう。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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