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WBCヘビー級、新チャンプの傍らで光るKRONKの文字

林壮一ノンフィクションライター
タイソン・フューリーは新トレーナーであるシュガーヒル・スチュワードと共に勝利した(写真:ロイター/アフロ)

 2月22日にデオンテイ・ワイルダーとタイソン・フューリーによって争われたWBCヘビー級タイトルマッチ。チケットは早々と完売し、会場となったMGMグランドガーデン・アリーナには1万5千816人が詰めかけた。

 試合前、かつてそのチャンピオンベルトを腰に巻いていたレノックス・ルイス、イベンダー・ホリフィールド、マイク・タイソンが功績を称えられ、WBCより贈られた記念メダルを手にした。

 彼らの時代と比較すると、昨今のヘビー級はお寒いと言わざるを得ない。しかし、技術が及ばない分、ファンを沸せるショーマンシップは身に付けたようだ。

Photo:Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Photo:Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 挑戦者フューリーは<王様>として花道に現れ、

Photo:Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Photo:Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 チャンピオン、ワイルダーはアニメのキャラクターのような被り物を纏ってリングインした。

 42勝(41KO)1分けのデオンテイ・ワイルダーと、29勝(20KO)1分けのタイソン・フューリーは、互いに白星を挙げられなかった唯一の相手との再戦に、周到な準備を重ねた。

 が、この日のワイルダーは何も出来なかった。

Photo:Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
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 初回から、自分の距離が掴めない。フューリーはフェイントを多用しながら、ジャブを突いて前進する。左ジャブを上下に打ち分けるセオリーも守っていた。

 2ラウンドに入ると、左の刺し合いに差がついていく。ワイルダーはフューリーの懐に入りたいのだが、ステップイン出来ず、遠目から何とか手を出すのが精一杯だ。逆にフューリーは、ボディショット、左フック、強いジャブ、そして強引なワンツーと、リズムに乗っていく。

 

Photo:Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Photo:Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 そして迎えた第3ラウンド、ワンツー、右、再びワンツーでポイントを稼いでいた挑戦者の右がチャンピオンの左側頭部を捉え、ワイルダーがダウン。

 

Photo:Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
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 その後のワイルダーはパンチを躱そうとはせずに、下を向く。更にダウン後、バランスを崩すシーンが目立っていく。

 獲物を仕留めたいフューリーも、強弱を付けたコンビネーションが打てない。ジャブを放ってクリンチという流れが多過ぎる…。そのあたりが、試合前にメダルを受け取った3名との違いである。

Photo:Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
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 5ラウンドには、フューリーが左フックから左ボディをヒットし、2度目のダウンを奪う。

Photo:Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
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 この時点でワイルダーのダメージは、かなり深刻であった筈だ。が、フューリーは詰め切れず、再三クリンチしてしまう。

 第7ラウンド、挑戦者のジャブでワイルダーの体が吹っ飛ぶ。その様は、42勝のうち41度のKOを誇ったハードパンチャーであるワイルダーが、"壊れた"ことを感じさせた。

Photo:Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Photo:Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 挑戦者がWのワンツーでチャンピオンをコーナーに詰め、左、右ボディ、左フックを見舞ったところで、レフェリーが試合をストップ。その直前、ワイルダーのコーナーからはタオルが投入されていた。

 新チャンプ、タイソン・フューリーは試合前、「ディフェンス面は今まで通り、ベン・デイビスのコーチを受ける。が、勝利するために、攻撃面の改善が必要だ。だから、シュガーヒル・スチュワードにお願いした。この選択は、俺の人生で過去にない素晴らしいものだと感じている」と語っていた。https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20200208-00159913/

 

 

Photo:Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Photo:Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 確かにタイソン・フューリーの金星は、スチュワード効果だったようにも思える。フューリーの傍らで微笑むスチュワードが着ているKRONKシャツに、目が釘付けになった。私は10年以上、シュガーヒル・スチュワードの叔父であるエマニュエルを取材させてもらった。

 今回、ワイルダーのチーフセコンドを務めたマーク・ブリーランドも、キャリア晩年にKRONKジムで練習し、エマニュエルの指導を受けている。シュガーヒル・スチュワードとマーク・ブリーランドのトレーナー対決にも、注目したい。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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