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アルゼンチン人コーチが語る「日本サッカーの限界が見えてしまった」

林壮一ノンフィクションライター
「勝てない森保Japan」になってしまった…(写真:ロイター/アフロ)

 実兄のピチは、あのディエゴ・マラドーナと共にワールドユース東京大会(1979年)で世界一となった右ウイング。息子は、京都サンガから栃木SCへの移籍が決まったエスクデロ競飛王。自身は、元アルゼンチンユース代表&ビーチサッカーアルゼンチン代表であるセルヒオ・エスクデロ。

 最近、川越市のフットサル場で自身のスクールを始めた彼が、サウジアラビア、シリアに完敗したU23日本代表について語った。

撮影:著者
撮影:著者

 開催国として東京オリンピック出場が決まっていますが、昨日の結果が示すように、アジアの代表の座を勝ち取れるレベルではない訳です。本来なら、サウジアラビアとシリアに負けた時点で終わりです。開催国枠で”お情け”のような状態での出場ということになります。それが本当に哀しいですね。

 それでもメディアは、まだ「メダルを狙う」なんて言っています。僕にしてみれば、悪い冗談にしか聞こえませんよ。アジア予選も突破できないのに、どうやってメダルを獲るのでしょう。まったく理解できません。

 1993年にJリーグが産声をあげて、今シーズンで28年目ですか。Jで活躍すれば、そこそこの財を築けます。注目もされる。選手たちは、それで満足してしまっているように思えますね。例えば浦和レッズのユースからトップチームに昇格して10年レギュラーでやれば、ある程度の金銭的な成功を得られますよね。だから、Jリーグで満足してしまう選手が少なくないように感じます。

 そういった危機感の無さや上を目指そうというスピリッツの欠如が、U23の敗北に現れている気がしてなりません。僕に言わせれば、日本は飽食の国、豊か過ぎる国なんです。世界と比べたらまだまだの力量なのに、いい給料をもらって凄い車に乗って、きれいな奥さんと素敵な家に住めたら、どうしたって向上心は失われていきます。

 でも南米なら、まずはアルゼンチンかブラジルのクラブで活躍して、ヨーロッパに渡って大金を得る、という図式があるんですね。ウルグアイやコロンビアからダイレクトでヨーロッパのクラブに移籍するのは、なかなか難しい。まずは南米の2大強国で頭角を現す必要がある。そして貧しさから這い上がり、サッカーで成功しなければ未来が無い選手ばかりなんです。だからこそ、選手は飢えた状態を長く保てています。そういう覚悟がU23の日本代表からは伝わって来ませんね。

 日本サッカー協会は指導者のS級ライセンスやA級ライセンスの為に厳しいプログラムを組んでいると感じているでしょう。が、これまでに異国で指揮をとった監督って、岡田武史さんと西野朗さんの2人くらいです。もっともっと、海外に出て行って、言葉の問題、文化の違いを味わいながら、日本の立ち位置を冷静に捉える人が出て来なければいけない。そこで、自分達の間違いに気付いてこそ、進歩に繋がります。

 選手も指導者も、海外の映像を見るだけでなく、どんどん海外に出て行って現場で挑戦しなければ。何が足りないかを思い知らされなければいけません。ぬるま湯に浸かってしまったことが、今回の結果を引き起こしたと僕は見ます。

 今日も高校サッカーの決勝がありましたね。静岡学園の優勝は素晴らしかったけれど、アルゼンチンでU18のクラブ選手権が、あんな風にTVで騒がれることは無いですよ。プロじゃないし、世界にも追いついていないんですから…。あんな調子でワーワーキャーキャーやっていたら、選手はどうしたって勘違いしてしまいますよ。

 森保監督のA代表と五輪代表の兼任は悪いアイデアではありませんが、実際のところ大変ですよね。代表にセレクトする選手を自分の目で見る暇が無いんじゃないですか。

 残念な結果をどう反省して次を見据えるのか。繰り返しになりますが、アルゼンチンを含め、どんどん海外の一流国から吸収しないと、アジアでも取り残されてしまいますよ。日本サッカー、頑張ってほしいです。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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