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アルゼンチン人コーチが語る「ベストメンバーでなかったエルサルバドルに2点しか取れない代表の危うさ」

林壮一ノンフィクションライター
6月9日、エルサルバドル戦のスターティングイレブン(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 実兄のピチはディエゴ・マラドーナと共にワールドユース東京大会(1979年)で世界一となった右ウイング。息子は現在、京都サンガ所属のエスクデロ競飛王。自身は、元アルゼンチンユース代表&ビーチサッカーアルゼンチン代表であるセルヒオ・エスクデロ。今、エスクデロは、埼玉県に発足したクラブチームFC Futureで指揮を執っている。

 その彼に、キリンチャレンジカップ2試合を終えた日本代表について訊いた。

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 6月9日のエルサルバドル戦で、日本代表は確かに2−0で勝利しました。久保建英のA代表デビューをメディアは大きく取り上げていますね。「将来性に期待できる!」「日本のメッシ!!」なんて騒いでいますが、キリンチャレンジカップ2試合の内容は、まったく物足りなかったです。

撮影:著者
撮影:著者

 僕は2016年の6月から1年間、エルサルバドルのプロ1部リーグの2強の一つ「FAS」でコーチを務めました。1970年と1982年にW杯に出場していると言っても、エルサルバドルは日本より格下です。ランキングも71位。5−0くらいで下さないといけない相手でした。

 というのも、今回のエルサルバドル代表チームには、エースストライカーのロドルフォ・“FITO”・セラージャ(30)と、MFのアルツロ・アルバレス(33)がいなかったのです。彼らは、現代表の顔です。つまり、ベストメンバーじゃなかったんですね。

 セラージャもアルバレスも米国メジャーリーグサッカーでプレイしていますから、シーズンの途中でクラブを離れられなかった。今季からLAFCに所属するセラージャは、代表キャップ45で21ゴールを挙げています。ヒューストン・ダイナモの一員であるアルバレスは、代表ではMFで出場することが多いですが、ボランチもサイドハーフもこなせます。代表キャップは43で、非常に高いテクニックを持っています。彼らは他の代表メンバーと比べると数段上のレベルなんです。

 2得点した永井謙佑、ドリブル突破を見せた原口元気、そして常に冷静にゴールマウスを守ったシュミット・ダニエルは良かったです。でも、もう少し、点を取らないといけない。パスパスパスと、セーフティーなサッカーをしていましたが、バリエーションが少な過ぎます。攻撃の選手に、特徴が見られませんでした。

 先日のトリニダード・トバゴ戦もそうですよね。前の選手に怖さがなく、パスで逃げるような感じで、同じタイプばかりです。だから、ランキング93位に得点できなかったんですよ。

 僕は、今回の2試合を見ていて、これではW杯のアジア予選突破は危ないと感じました。やっぱり乾貴士みたいに、ボールを持ったら常に仕掛けていく選手が必要です。

 日本の期待を一身に背負う久保建英も悪くはありませんでした。ボールを奪われないし、度胸もある。確かに上手い選手です。でも、コパ・アメリカみたいな場で、直ぐに活躍できるでしょうか? まだまだ時間が掛かりますよ。

 先日もお話ししましたが、コパ・アメリカの日本代表はAチームという訳ではありません。サッカーの厳しさを肌で味わうことになるでしょう。

 いつも思いますが、世界的な大会に挑む前にはもっと強豪国を呼んで、自分たちの足りない部分を認識する必要性がありますよ。格下チームを日本に連れてきて「勝った」「勝った!」とやるのは、興行的に成功したとしても、強化には結び付かないですよね。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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