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決戦まで7週間 村田諒太~敗北を糧に~

林壮一ノンフィクションライター
重心を確かめるようにシャドウボクシングした村田諒太 撮影:岩尾陵佑(DZ)

 7月12日に組まれたロブ・ブラントとの再戦まで7週間となった。今、村田諒太の表情は明るい。田中繊大トレーナーによれば、「村田はノッていますよ」とのことだ。

 先日行われた公開練習で目を引いたのは、シャドウボクシングにしても、ミット打ちにしても、ひとつひとつ重心を確かめながら動いていた点だ。

 村田は言う。

 「前回の試合は身体が突っ立って、ブラントに押されて浮き上がるような部分がありました。絶対にそうならないように、しっかりと強く構えていられるように意識しています。自分の体に力を感じますし、その状態から打てることも感じています」

 ボクシングは基本の繰り返しである。特別な練習など無い。どんなレベルでも、基礎の反復が勝利を掴む。ジョージ・フォアマンもマービン・ハグラーもトーマス・ハーンズもロイ・ジョーンズ・ジュニアも、オスカー・デラホーヤもそう語った。

 

 「そうですよね。状態がいい時って、それがしっかり出来ています。本来、基本がしっかりしているから状態もいいのに、ボクサーって、時に、魔法を使ったと勘違いしてしまうことがあります。あの時はこうやった、ああやったって試行錯誤するんですけど、特別な事をしたからいい訳では無い。今、改めて基礎の大事さを噛み締めながら練習しています」

 重心を低くすることで、手数が増した。シャドウでもミット打ちでも、ロブ・ブラント第1戦の前とは比較にならない。

 「前回は重心が高かったので、手が出せなかったんですよね。打つ度に重心も崩れていました。今は、相手が打って来ても崩れないように、しっかり足に力が入るようにしています。そうやれば手数も出ると思います」

 

撮影:岩尾陵佑(DZ)
撮影:岩尾陵佑(DZ)

 「ノッている」という田中繊大トレーナーの言葉もぶつけてみた。

 「自分でもノッている感じはあります。ここまで、全体的にいい感じで来ていますね。プロになって、やっと気持ちと体が合って来たように思います。エンダムとの2戦目、ブラント戦と、心と体がマッチしないところがあったんですよ。でも、今回は気持ちも体も付いて来ているので、集中出来ていますね」

ーーハングリーじゃなくなっていたーー。ブラントにベルトを奪われた直後、村田はそんな言葉を漏らした。

 「皆、いつかボクシングを止めたいと思っている訳じゃないですか。ある程度の稼ぎがあったりすると…気が緩んだ部分があったかもしれません。また、チャンピオンと言ってもカネロだゴロフキンだとの対戦は現実的ではなく、実現が夢見心地みたいなところがありました。何をどうすべきかが分かっていませんでしたね」

撮影:岩尾陵佑(DZ)
撮影:岩尾陵佑(DZ)

 「夢って言うと漠然としているし、叶え切れない世界平和なんかを<夢>と捉えますが、今の僕の夢は実現目標です。ブラントに勝って、その後絶対にビッグマッチに行くんだという完全な実現目標として見据えていますから、モチベーションが違います。このまま終わりたくないですから」

 前回と同じことをしたら勝てない。

 村田本人はもちろん、陣営の誰もがそれを認識し、次に向かって基礎練習を重ねている。次戦では、10月の敗戦から何を学んだかをリングで披露してくれることだろう。

 負けを知った人間は強いのさ。モハメド・アリが私を下したのは、敗北を乗り越えていたからだよーーージョージ・フォアマン

 村田は王座を失ったことで、精神の充実を手にしたのかもしれない。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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