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高校5冠からプロヘ「必ず世界王者になる」と太鼓判を押された男 

林壮一ノンフィクションライター
重岡銀次朗の名を覚えてください  撮影:著者

 「必ず、世界王座に就ける素材。ワタナベジムから生まれた世界王者たちと比較しても、才能は申し分ない。どうやってキャリアを積ませるかですね」

 渡辺均、ワタナベジム会長が太鼓判を押すのは、19歳の若きファイター、重岡銀次朗である。

 銀次郎は1999年10月18日生まれ。2つ年上の兄・優大(現拓殖大ボクシング部)の影響で、幼稚園の年長から自宅近くの空手道場に通った。

 「空手は小6まで続けましたが、体も小さいので普通に負けていました。小4からは、空手と並行してボクシングジムにも通い始めたんです。それ以降は空手が週3、ボクシングが週4になりましたね」

 中学1年からボクシング1本に絞る。学校の部活には目もくれず、自宅と学校、ボクシングジムを往復する生活を送った。

 「体が小さいと空手ではハンデです。ボクシングの方が将来性ありだなと思って、選びました。小5からU15の試合に出ていて、負け知らずだったことも大きいです。自分に合っているな、と。僕のアマチュア戦績57戦には含まれないのですが、全て勝ちました。結構ガチガチ殴りあうタイプでしたよ。ジュニアはストップが早いので、かなりRSC勝ちした記憶があります」

 兄の後を追うように、開新高校(熊本)に入学する。

 「1年生の頃は『そんなに甘い筈はない。どこかで負けるだろう』と思っていました。自信もなかったんです。でも、同じ階級だった兄貴が引退後の10月からに試合に出始めました。新人戦でした。これで優勝し、春に行われた全国大会、『選抜』でも勝てちゃって…自信が付きましたね」

 開新高校時代に5冠(高1選抜・高2インターハイ、国体、選抜・高3インターハイ)を成し遂げ、鳴り物入りでプロ入りした。

 「高3の国体は、怪我で出られませんでした。アマ戦績は56勝1敗です。“1敗”の相手は兄貴です。インターハイ予選熊本県大会の決勝でした。試合開始のゴングと同時にコーナーからタオルが入って、僕が負けることにしました。兄貴と食うか食われるかの殴り合いはできませんから。親や監督とも話し合って、そう決めたんです。今思えば試合前に棄権という手もあったようですが、当時はそうしなければいけない、ということでした。特に拘りもなかったので『いいや』と思ったんですよね」

 卒業後、銀次朗は上京してワタナベジムの門を叩く。

 「ワタナベジムには兄貴がスパーでちょこちょこ行っているので雰囲気を聞いていましたし、田口良一さん、京口紘人(現WBAライトフライ級王者)さん、谷口将隆さんら、軽量級の強い選手が沢山いますから、練習になるだろうと感じたんです。京口さんとは何度かスパーをやっています。最初にやったのは東京に来て5ヵ月後くらいの夏だったかな。3~4ラウンドでしたね。“プロ”というものを教わった感じがしました。京口さん、無茶苦茶強かったですね。体が強いんですよ。レベルが違いましたし、自分にはスタミナが無いと思い知らされました。京口さんとはトータルで、30ラウンドくらいやっていると思います」

 2018年9月25日、銀次朗は京口の前座でプロデビューを果たす。サンチャイ・ヨッブン(タイ)を3ラウンド1分22秒で沈めた。

 「プロの試合はお客さんがいっぱいいて、倒せば盛り上がるし楽しいものだなという印象でした。高校のアマチュアとは雰囲気が違いますよね」

 プロ第2戦は、今年の2月26日、谷口が世界挑戦した前座だった。銀次郎は何なく相手を初回1分35秒でKOした。

 「相手が弱過ぎたので、盛り上がらなかったですよね。正直、あまり嬉しくなかったです」

 そして、4月14日。銀次朗は3戦目でフィリピン人選手、ジョエル・リノと対峙した。リノはWBOアジアパシフィックタイトルに挑んだ経験を活かし、粘る。結果は銀次朗の8回判定勝ち。

 「リノは予想通り強かったです。相手への入り方が分からなくなってしまい、冷静に戦えなかったです。もっと、サイドからとか、色んなアングルで相手の懐に入る策、パンチを当てた後の組み立てを覚えなければいけないと思います。色々と次に向けての課題が見えましたので、また頑張ります。」

 渡辺会長も話す。

 「内容はワンサイドでしたが、ちょっと苦戦しました。それもまたいい経験ですよ。今まで重岡は、強打の一発で相手を倒すボクシングをイメージしていましたが、今後は連打で圧倒するスタイルを身に付けさせたい。あまり焦らずに、一歩一歩階段を上っていけばいいんです。彼は世界チャンピオンになれる逸材ですから」

 先輩の京口も言い切る。

 「あいつのセンスはヤバいですね。絶対に世界チャンプになれるでしょう」

 重岡銀次朗、一度、生でご覧ください。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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