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アルゼンチン人コーチが語る「指導現場に暴力は必要ない!」

林壮一ノンフィクションライター
アルゼンチンでは誰もが「暴力指導で選手は育たない」ことを理解している(写真:ロイター/アフロ)

 実兄はディエゴ・マラドーナと共にワールドユース東京大会(1979年)で世界一となった右ウイング。息子は現在、京都サンガ所属のエスクデロ競飛王。自身は、元アルゼンチンユース代表&ビーチサッカーアルゼンチン代表であるセルヒオ・エスクデロ。今日、エスクデロは、埼玉県に発足したクラブチームFC Futureで指揮を執っている。

 先週に続き、エスクデロが「日本の悪しき伝統」について語った。

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 アルゼンチンのS級ライセンスと日本のS級ライセンスの差は、非常に大きなものがあります。でも、僕が特に疑問を感じるのは体罰問題ですね。

 流石にプロの世界は無いでしょうが、今でもサッカーの指導現場に暴力を持ち込む監督が沢山います。僕が埼玉栄高校の監督をしていた頃から、高校サッカーの現場で何度も目にしました。

 そういう指導者に言いたいのは、「選手を殴ったり蹴ったりすれば、その子の技術が上がるのか?」ということです。「シュートを外した子に監督が暴力を振えば、次からシュートが決まるようになるんですか?」「トラップをミスった子に蹴りを入れれば、その子は次からきちんとボールをおさめられるんですか?」

 ミスをした原因を分からせ、課題を与えて練習させることが大事なんじゃないですか? そんな類の指導者と付き合っていたら、選手たちはサッカーが嫌いになってしまいますよ。

  皆、サッカーが好きだから部活に入って、選手権に出たい、全国大会で活躍したい、あるいは県のトップを狙うのは難しいけれど、自分のレベルで最大限頑張ろうっていう気持ちで汗を流しているんです。そういう子たちの純粋さを砕いてしまっていいんですか?

 アルゼンチンでこんな暴力指導をしたら、指導者は続けられませんよ。言語道断です。それでも基本的に、学校側は暴力監督を守るんですよね…。大した反省もさせないうちに、また指導する場所を与えてしまう。あり得ないことです。

 せっかく、国内で人気スポーツになったというのに、こういう指導者の意識を変えていかないと、日本のサッカーはいつまでたっても世界の強豪になれないと僕は思っています。

撮影:著者
撮影:著者

 繰り返しになりますが、アルゼンチンの指導者は心理学を勉強します。つまり、人との接し方を学ぶんです。日本の指導者ライセンスにも是非、心理学を必須としてもらいたいですね。

 エスクデロの言葉は適確であり正論だ。

  現在、センバツ甲子園が開催されているが、埼玉県代表校の野球部監督殿も暴力指導が明るみに出てベンチで采配を振るえなかった。こういう輩に、エスクデロの言葉は届くのだろうか。多くの場合、暴力監督たちはこう言う。「自分らも殴られながら育てられたのだ」と。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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