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世界戦の敗北から24時間。再起を決めた男は語った。

林壮一ノンフィクションライター
世界タイトルに初挑戦した谷口将隆 撮影:山口裕朗

 「試合終了のゴングを聞いた時、『自分の力は出し切った』と感じました。でも、一夜明けてみると、もっとああすれば良かったんじゃないか。こうすべきだった、という思いでいっぱいですね」

 2月26日、ビッグ・サルダール(フィリピン)の持つWBOミニマム級タイトルに挑んだ谷口将隆は、0-3の判定で敗れた。8ポイント差としたジャッジが1人、残る2名は6ポイント差と採点し、完敗を喫した。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 

 世界初挑戦で黒星を喫してからおよそ24時間後、谷口はハキハキと試合を振り返った。

 「前半は足を使い、出入りを速くしたアウトボクシング。後半は接近戦に持ち込んでガチガチ打ち合う、というゲームプランでした。初回は、そこそこ僕のスピードが活きたように感じました。でも2ラウンド以降はチャンピオンの懐に飛び込むと、右を合わされるようになってしまった。それで後手に回っちゃったんです。サルダールは楽な気持ちで戦っていましたね。もっともっと僕が積極的に出ていけば、違った展開になったかもしれません…」

 ファーストラウンドから谷口は、サルダールに自分のパンチが届き難いことを感じた。

 「遠いなと。過去に対戦したどの選手よりも懐が深く、僕が攻めてもパンチを返されました。2ラウンド目以降は、ノーモーションの右に威力を感じました。サルダールはパンチがあったし、内側からのパンチと外側からのパンチの使い分けが巧かったです。僕が右に回ろうとすると、正面に立つようにポジションを取り、ジャブを殺されました。また、サルダールは当てるジャブと当てないジャブを織り交ぜてペースを握りましたよね。僕はジャブが少なく単調になってしまった」

 谷口自身も、彼を指導する井上孝志トレーナーも、前半はポイントを失ってもいい。サルダールが後半に失速するところがチャンスだと考えていた。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 第7ラウンド。谷口は身体を付け、執拗にチャンピオンのボディを狙う。左アッパー、そして顎への左ストレートをヒットさせ、流れを手繰り寄せる。

 「このまま行くぞと8ラウンドを迎えたのですが、前に出てボディを打つだけで、僕の動きはワンパターンになってしまった。工夫のない僕に対してサルダールは、打って引いて、また打つ、ということをやりました。どうすればチャンピオンに接近できるかを考え、潜り込めたなら、パンチを4つ、5つとコンビネーションを打つべきでした。が、自分はサルダールの懐に入っても、1発、1発、としかパンチを打てなかった。反省しています。今後、自分は連打を身に付けなければ」

 終盤、谷口はポイントを失う。

 「判定では勝てないことは理解していました。でも、クロスレンジで戦えていたのに、打った後にサルダールの右をもらって止まってしまったんです。玉砕覚悟で、パンチを食いながらでも前進すべきでした。チャンピオンの右ストレートを警戒し過ぎましたね。僕は挑戦者なのですから、あそこで出ないといけなかった…もっと、自分に出来ることがあった気がします」

 とはいえ世界戦を経験し、谷口には自身の課題が明確に見えた。

 「もう一歩、相手に踏み込める勇気を持たなければいけません。近い距離でも戦える選手になります。小奇麗なボクサーではなく、とにかく勝てるボクサーになりたいです。チャンスになったら、なりふり構わずに30連発くらいのコンビネーションを放って相手を仕留め切るボクシングを目指します。サンドバッグを打つにしても、形じゃなくて、ガムシャラに3分間打ちまくるようなトレーニングを取り入れようと思います」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 デビュー以来、谷口を指導してきた井上も話す。

 「過去の試合を見て、サルダールは後半に失速していましたから、そこを狙う作戦でした。でも、王者はペースが落ちなかった。誤算でした。もう一度出直しですね。今後、谷口はまず日本ランカーと対戦し、次に10月くらいに行われる日本タイトル挑戦者決定戦に出場させます。そのうえで日本チャンピオンに挑ませます。

 谷口は、傷付いても傷付いて這い上がっていける男だと思っています。敗北を恐れない選手になってほしいです」

 10日ほどの休養を取り、谷口は新たなスタートを切る。悔しさを胸に、屈辱を糧に、遮二無二、泥臭く、次の一歩を踏み出せ!

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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