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6日後に世界タイトルに挑戦するサウスポーへのインタビュー

林壮一ノンフィクションライター
箸も鉛筆も左という谷口の武器は左ストレートだ 撮影:山口裕朗

 2月26日、WBOミニマム級2位の谷口将隆(24)が世界戦のリングに上る。

 同門であるWBAライトフライ級チャンピオン、京口紘人と同じ歳で、アマ時代には対戦した(谷口の2勝4敗)。京口は大阪商業大で、谷口は龍谷大で共に主将を務めた。

 京口は言う。

 「学生時代もプロになってからも、ずっと切磋琢磨して来ました。僕が世界タイトル戦(京口は大晦日にWBAライトフライ級王座を獲得し、IBFミニマムに加えて2階級制覇を達成した)に向けて積んだトレーニング以上の事を、谷口はやっています。あとは、本人がリング上でいかに力を出すかです。世界王者になれるだけの実力はあると思いますよ。普段の力を本番で出せたら勝てるでしょう。期待していますよ」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 谷口がグローブを握ったのは中学1年の時だ。

 「友達がジムに通うことになり、ついて行きました。ダイエットのジムなのですが、僕も入会したんです。ボクシングを始める前の小学生時代は、野球を3年間やったのですが、滅茶苦茶下手クソで、向いてないと思っていました。球技ができないんですよ。体操や走りは得意だったのですが…。

 一緒に入会したその友人は、直ぐに辞めてしまいましたが、僕はジムの会長が怖くて辞めることができずに続いちゃったんです(笑)。それでもスパーリングをやるうちに、楽しくなっていきました」

 谷口の飄々とした口調からは、人の良さが伝わる。

 「当初、アマでボクシングをやろうとは考えていなくて、高校からプロでやるぞと考えていました。僕の学業成績だと地元の男子校に行くしかなかったのですが、男ばかりは嫌じゃないですか。だから、何とか共学に進学したら、名前だけのボクシングがあったんです。練習は走りだけでしたが。ジムワークは中学時代から通っていたジムでやっていました」

 高2で出場したインターハイでベスト8となるが、3年次は1回戦で敗れている。

 「大学に進学するつもりも無かったんですが、僕の試合を龍谷大の監督が見てくれて、誘ってもらったんです。母に相談したら、『行けるんだったら、大学に行った方がいいわよ』ということで。そうやって続けていって、ここまで来ました(笑)」

 龍谷大では1年からレギュラーとなる。

 「京口とは、当時からライバルでした。実は中3のスパーリング大会で会っているんですよ。その試合は勝敗が無かったのですが、高3の近畿大会の決勝で対戦して僕が負けました。大学4年生の時に、京口をスカウトに来たワタナベジムの井上孝志トレーナーに声を掛けてもらって、東京行きを決めたんです」

 大学卒業直後の4月3日にプロデビュー。現在までの戦績は11勝(7KO)2敗。2敗は共に日本人選手で、初黒星は日本ミニマム級タイトル決定戦。2度目の敗戦はOPBF東洋太平洋ミニマム級王座決定戦であった。

 「11戦のうち5回はタイ人との試合でした。タイの選手はがっちりしていますね。フィリピンの選手とも6度試合しています。乱暴で強いんですが、メンタルが脆いイメージがあります。日本人は勤勉で我慢強い気がしますね。

 日本タイトル戦での敗北は、気持ちとスタミナです。前半にポイントを獲ったのですが、相手の我慢強いボクシングに付き合ってしまってバテました。2つ目の敗戦は、自分の力は出し切ったのですが負けたので、実力が足りなかったってことです」

 2つ目の負けから2戦を挟み、WBOアジアパシフィックタイトルを得て、今回の世界挑戦に漕ぎ着けた。

 「2敗した頃の自分は、技術云々よりもハートが弱かったです。偶然のバッティングをしてしまった時なんか、ファイトを中断して相手に謝ったりしていました。あるいは、仕留め切れなかった試合もあります。『リングの中で遠慮したらアカン』ということを学びました。野獣のように、しっかりガッツリ行けるようにと思って練習して来ました」

 これまで谷口は、2階級を制した京口に対して嫉妬を覚えていたという。

 「でも、世界戦に向けてトレーニングしながら、京口はこんな大きなプレッシャーとも戦っていたんだな、と敬う気持ちでいっぱいです。彼の存在はいい刺激になりますよ」

 谷口は練習メニューでは絶対に京口に負けないことを己に課して、汗を流して来た。

撮影:山口裕朗 「谷口の優しい人柄を徹底的にしごいて来ました」(井上孝志トレーナー)
撮影:山口裕朗 「谷口の優しい人柄を徹底的にしごいて来ました」(井上孝志トレーナー)

 谷口が挑むWBOミニマム級チャンピオンのビック・サルダール(フィリピン)は、戦績18勝(10KO)3敗の28歳。日本人との対戦は、今回で3度目。WBOミニマム級タイトルの初防衛戦である。

 「サルダールは、パワーがありますね。アマ経験もあるから、足も使えます。サルダールのパンチを貰わないように捌いて、後半に倒したいですね。自分のボクシングには華が無いのですが、華を見せてしっかり勝ちたいです」

 インタビュー中、笑顔が絶えなかった谷口。26日は世界のベルトを巻いて、リング上で白い歯を見せてほしい。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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