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現役続行の村田諒太よ、敗北を糧としろ!

林壮一ノンフィクションライター
写真:山口裕朗
写真:山口裕朗
写真:山口裕朗

 12月4日、13時。村田諒太が現役続行をアナウンスした。バンテージを巻いたままプレスの前に登場した村田は、カメラのシャッターが鳴り響くなか、次のように語った。

 「自分自身、この前の試合を振り返って、いいところが無かったな、と。自分の人生を振り返った時に、あの試合、あのボクシングが自分の集大成でいいのだろうか? と考え、やはり、あれで終えたくないと考えました。

 ハングリーさが欠如していたかな、とも感じましたので、そのあたりの気持ちもしっかり作り直して、もう一度、世界の舞台に立てるようなボクサーになりたいと思います。単に世界の舞台に立てばいいという訳じゃなく、自分自身をしっかり追い込んで、求める物をしっかり求めて、そのうえでまたリングに立てるように…そういう自分になりたいな、と。だから、このままボクシングは終われないなという気持ちです」

 

 10月20日、村田がネバダ州ラスベガス、パークシアターでロブ・ブラントにWBAミドル級タイトルを奪われた折、会場には元WBOヘビー級王者のシャノン・ブリッグスの姿があった。

 ブリッグスは、「リョータ・ムラタは、もっともっとうるさく動いて、手を出すべきだった。右を狙い過ぎていて、手数が少なかったよね」と語り、こう付け加えた。

「でも、スタイルを変えれば、まだまだチャンスのあるファイターだと感じる。32歳か……。伸び代はあるから、引退するのは早いよ」

 村田の言う“あのボクシング”とは、右を狙い過ぎて手数が少なかった10月20日の自身である。

 質疑応答になった際、私は質した。

――ロブ・ブラント戦で村田さんが学んだものとは何ですか?

 彼は答えた。

 「一撃が自分に無かったですね。起死回生する一発も無かったですし、ただ前に出て(ブラントを)追いかけて、ちょろちょろとしたパンチを打って、自分自身がちゃんと構えてもいないし、距離も悪いし…本当に反省することだらけです。反省することイコール学ぶことだと思いますので、反省することが多かったというのが、学びかなと思いますね」

――では、次のステップとしては、その反省を生かしてやっていくということですね?

 「そうですね。ちゃんとした一発、決め手となる一発を打てないとどう見てもあの試合で、逆転するという感じは無かったですし、そのあたりもしっかりやっていきたいと思っています」

写真:山口裕朗
写真:山口裕朗

 村田の言葉を耳にしながら、私は先日インタビューした大橋秀行(大橋ジム会長)の言葉を思い出していた。

 

 大橋会長はWBCとWBAでミニマム級世界チャンプとなっているが、「勝った試合よりも、張正九、リカルド・ロペスに敗れた試合の方が印象深い。負けが自分を強くした。今考えれば、敗北から学び、それを克服していく作業は楽しかった」と言い切った。

また、こうも話した。

 「ボクシングも人生もピンチの後に必ずチャンスが来るものです。僕はボクサー時代に負けを肥やしにする癖がつきましたから、人生で苦しい局面に置かれた時は、どう克服して次に繋げるかをワクワクしながら考えるんですよ」

写真:山口裕朗 会見中、村田は笑顔も見せた
写真:山口裕朗 会見中、村田は笑顔も見せた

 今日の村田の表情はスッキリとしていた。このボクサーもまた、敗北を糧に出来る男だと私は思う。村田諒太らしく、リングで生き抜いてほしい!

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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