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アマチュアボクシング界は、今が生まれ変わる絶好の機会だ

林壮一ノンフィクションライター
助成金をきちんと受け取れなかった成松大介選手(写真:ロイター/アフロ)

 かつて、石川県金沢市のカシミジムに中岸風太という選手がいた。小学生からボクシングを始め、小・中時代にプロの興行でエキジビジョン・マッチに出場した。エキジビジョンとは、勝敗のつかないスパーリングである。

 中岸はその数年後、高校1年次にインターハイの県予選で優勝。ところが、全国大会への切符を手にした瞬間に日本ボクシング連盟から選手登録を抹消される。理由は「プロの興行に出場した過去があるから」であった。

 現在、「八百長」「助成金不正」「試合用グローブの独占販売」などで巷を賑わせている「日本ボクシング連盟」とは、そんなことを平気でやる組織だ。哀しいかな同団体は、日本のアマチュアボクシング界を取り仕切っている。

 今回、思い切って日本ボクシング連盟による不透明な金の流れを公にした成松大介選手には、拍手を送りたい。

 米国では、五輪選手が現地入りする際、プロのビッグマッチのリングにオリンピアン全員を上げ、関係者やファンが一緒になって健闘を祈る。そこにはプロもアマもない。ボクシングを愛する者が手を取り合って、声援を送るのだ。

 そんな光景を目にしていた私は、中岸選手の件を耳にした折、憂鬱になった。というよりも馬鹿馬鹿しくて反吐が出た。

 日本ボクシング連盟は、現WBAミドル級チャンピオンの村田諒太選手がプロに転向した時にも「追放だ」「除名処分だ」「プロに行くなら連盟理事会には顔を出すな」と、子供じみた主張を繰り返した。

 アマチュア選手がプロに転向することが、何故、そんなに問題なのか? 日本では「職業選択の自由」が憲法で認められているのだから、他者の決断にああだこうだと言うのはおかしな話である。

 彼らは金メダリストからプロ入りした名王者、モハメド・アリ、ジョー・フレージャー、ジョージ・フォアマン、シュガーレイ・レナード、オスカー・デラホーヤらも認めないつもりか? そんな筈は無い。ボクシング関係者なら、そういった拳豪のファイトに少なからず心を震わせていなければ嘘だ。

 さて、本コーナーで頻繁にご登場頂いている元WBAジュニアウエルター級1位、日本同級&日本ウエルター級チャンピオンの亀田昭雄にもコメントしてもらおう。亀田もまた、プロに転向する前、アマチュアの日本王者であった。

 「日大アメフト部の問題もそうですが、皆、自分の懐と権力のことしか考えていないんですよ。選手の気持ちなど分かろうともせずに“政治家”になってしまっている。今回、成松大介選手は勇気を持って、アマチュアボクシング界のドンである山根明を告発した。成松を支持する人が300名にも上った。非常に喜ばしいことです。次世代の選手の為にも、ここで汚い人間たちを一掃してほしいですね」

 今回のスキャンダルは、起こるべくして起こったものである。恥を知らない当人たちに反省の色は無いだろうが、こういった輩が即刻退陣することを願ってやまない。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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