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防衛戦11日前、WBA/IBF統一王者、田口良一をインタビューした

林壮一ノンフィクションライター
打ち合いが好きな2冠王者  撮影:山口裕朗

 WBA/IBFと2本のチャンピオンベルトを巻く、ライトフライ級世界王者の田口良一(31)。5月20日にWBAは8度目、IBFは初となる防衛戦を控える。

スパーリング前、シャドウボクシングをする田口 撮影:著者
スパーリング前、シャドウボクシングをする田口 撮影:著者

 5月10日、10ラウンドのスパーリングをこなした田口を取材した。

 身長167センチと、このクラスではかなりの長身だが、アウトボクシングはまったくしない。デビュー以来「打ち合って倒す」スタイルを貫いてきた。日本チャンピオン時代、井上尚弥に黒星を喫したが、彼が統一王者に君臨できたのは、その気の強さが源である。

 「僕は打ち合いが好きです。ジムで最初にボクシングの手解きを受けた韓国人トレーナー、洪東植(ホン・ドンシク)さんから、ファイタースタイルで指導を受けて、ガンガン攻めていくようになりました。基礎の段階からファイターでしたし、性格的にも打ち合うことが好きなんです。

 畑山隆則さんや新井田豊さんに憧れていたので、自分の中でアウトボクシングをやろうという気持ちはありませんでした。

なかなか倒し切るのは難しいですが、お客さんが心を躍らせるのは、やはり打ち合いじゃないですか。自分が畑山さんの試合で興奮したように、見る人に喜んで頂きたいという気持ちがあります」

 この日のスパーリングは、6ラウンドをメキシコ人と、4ラウンドを後輩とこなした。田口はジャブを何発か出す間に、同じモーションで左フックを入れる。また、接近戦になると、相手のガードを潜って、何度も顎への右アッパーをヒットした。

10ラウンドのスパーをこなした田口 撮影:著者
10ラウンドのスパーをこなした田口 撮影:著者

 「右アッパーよりも左ボディーの方が得意です。今日は疲労が溜まっていて、調子が悪かったんですよ。こんな日は、得意なパンチが出ないものですね。1週間前にも10ラウンドのスパーリングが組まれましたが、その時の方が左ボディーをうまく使えました。あの日は調子が良くて、臨機応変に対応できたんですが、今日はちょっと…」

 田口は毎試合、およそ8.5キロの減量をこなす。10日前で、残すところ4キロだと語った。

 「僕の場合、いかにコンディション良く当日のリングに上がるかが一つの課題です。試合で調子のいい日は、トレーニングの段階でとても動ける日があるんです。試合当日のコンディションが悪い時は、練習でも調子のいい日がほぼ無いんですよ」

 5月20日のヘッキー・ブドラー(南アフリカ)戦に向けた調整では、5月2日に組まれた10ラウンドのスパーリングで調子の良さを感じたという。

 「今、本当に疲れが溜まっていて、パンチを出すのも腕が重い、身体がだるいような状態なんです。まぁ、毎回ここを乗り越えて、本番に挑むのですが」

 ヘッキー・バトラーは、田口が昨年の大晦日に下したIBF王者、ミラン・メリンドにベルトを奪われた元チャンピオンである。

 「バトラーは実績があって、油断ならない相手です。個人的に言うなら、彼とメリンドとの一戦は、バトラーが勝ったように見えました。結果は1-2の判定負けでしたが、相手にとって不足はありません。

 バトラーは非常にガードが高いので、当て難いかもしれません。また、ワンツーと2つのパンチで終わらず、変なタイミングで3つ目を打ってくるし、足も使えます。ですから自分の距離で、インファイトに持っていきたいですね」

 田口は日本王座の初防衛戦でも井上尚弥との対戦を熱望した。WBA王座、6度の防衛に成功した後も、IBF王者との統一戦を望んだ。強い選手とやりたい、という気持ちを常に持っている。

 「強い敵から逃げたと思われたくない、という思いは常にあります。リスクのある試合に勝てば、得るものもそれだけ大きいじゃないですか。日本ランカーだった頃の僕は、周囲から『頑張ってね。期待しているよ』なんて言われると、それがプレッシャーになってしまう部分がありました。でも、世界チャンピオンになってからは、そういう言葉に過敏に反応せず『あぁ、ありがとうございます』と感じられるようになって来ましたね」

 今のところ、田口は世界タイトルマッチを8度戦い、そのうちの半分をKOで仕留めている。全てが後半の決着だ。それは即ち、彼の豊富なスタミナとメンタルの強さを物語っている。

 「自分は序盤から試合終了まで一定のペースですが、相手がヘバって来るんですよ。6度目の防衛戦では、最初から飛ばしていこう。8Rでスタミナを使い果たすくらいの思いでやりました。それ以降は気持ちの勝負だな、と。相手が効いたと感じたら、ガンガン攻めましたね。結果、それが良かったです」

 このファイトは、第9ラウンド24秒で挑戦者をストップした。

 「昔の夢は世界チャンピオンになることでしたから、達成感はありますよ。自分が世界タイトルを7度も防衛できるとか、2団体統一できるなんて想像もしていませんでしたから。

 でも今は、もっと色々なことをやってみたいな、と考えています。今年は3試合こなして、WBA王座を10回防衛したいです。今、2団体を統一していますから、3つ目のベルトも狙っていきたいですね。ファンが望むマッチメイクに応えていきたいです」

リングを離れると、その気の強さは微塵も感じさせない王者 撮影:著者
リングを離れると、その気の強さは微塵も感じさせない王者 撮影:著者

 20日にヘッキー・バトラーと対峙する試合会場、大田区立総合体育館は、中学3年生だった田口がボクシングと出会った場所である。彼は当時、同体育館で催されていたボクシング教室に通っていた。

 「不思議な感覚です。運がいいというか、原点である場所で世界チャンピオンになれて、何度も防衛戦をするなんて、思ってもみなかったですから」

 統一王者として“ホームアリーナ”の花道を歩く田口良一。彼らしいファイトを期待したい。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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