リングで起こる不正行為
山中慎介は3月1日、試合後の控室で、「もっとルールを徹底してほしい」と唱えた。ルイス・ネリは王座剥奪だけでなく、ボクサーライセンス自体、サスペンドすべきだった。
さて、私はネリについて考えながら「CORNERED:A Life Caught in the Ring」というドキュメンタリーを思い出した。その内容をかいつまんで説明する。
ロベルト・デュランがデビー・ムーアを下してWBAジュニアミドル級王座に就いた1983年6月16日、前座のミドル級10回戦でアイルランド系アメリカンの人気選手、Billy Collins Jr.(14戦全勝11KO)と、そこそこ将来を期待されていたプエルトリカン、Luis Restoが戦った。
19勝7敗2引き分けのRestoは、この一戦で過ちを犯す。トレーナーを務めたパナマ・ルイスが「勝つために」と、グローブのナックル部分の綿を抜く様を目にしながら、自身も納得してリングに上がるのだ。
結果は判定勝ち。しかしその後、"事件"が明るみに出て、試合はノーコンテストとなる。そればかりでなく、Luis Restoとチーフセコンドを務めたパナマ・ルイスは訴えられ、塀の中の住人となる。パナマ・ルイスという男は、1982年11月12日のアーロン・プライアーvs.アレクシス・アルゲリョ戦でも、プライアーにペパーミントシュナップスを飲ませ、サスペンドを食らった。7月後の再犯で、ボクシング界から永久追放されている。
ベアナックルで殴られ続けたことによって右目にダメージを負ったBilly Collins Jr.は、二度とボクシングが出来ない身体になってしまう。生きがいを取り上げられたBilly Collins Jr.は、酒に溺れ、クスリに溺れ、やがて自らの命を絶つように自動車事故で永眠。22歳の若さだった。
このドキュメンタリーは、まず事件を追い、出所後のLuis Restoにスポットを当てながら進行する。
世界チャンピオンになれなかった Resto。悪魔の囁きに応じ、犯罪者となった彼。そして、過ちを家族に告白し、Collinsの遺族に謝罪に出向く彼……。
人間の弱さ、脆さ、そして真実の重みが伝わってくる作品だった。これ、日本でも放送すればいいのに・・・と思うが、商売的に難しいだろう。Boxingのビッグマッチを手掛けているだけあって、HBOは素晴らしい仕事をする。
ネリのドーピング問題&計量失敗も、どこかでドキュメンタリーにならないだろうか? ボクシングを舐めているネリは近い将来、Restoのように”人生を教育される”に違いない。