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かつての指導者が語る「井手口陽介」

林壮一ノンフィクションライター
井手口は、6日のニュージーランド戦で何を見せるか。これからが始まりだ。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)
小6時の井手口と加藤コーチ。※写真は加藤氏提供
小6時の井手口と加藤コーチ。※写真は加藤氏提供

 

 10月6日のニュージーランド戦、10日のハイチ戦に挑む日本代表メンバーが発表された際、ハリル監督は井手口陽介について、「成長し続けている姿はうれしい。将来性がある」と語った。

 オーストラリア戦で時の人となった井手口は、現日本代表の最年少プレイヤーである。今回、小学6年生の井手口を指導したコーチ、加藤義裕に話を聞いた。

 私はかつて日本の少年サッカーの現場を歩き、見るに堪えない指導を数多く目にした(※興味のある方は『間違いだらけの少年サッカー』(光文社新書)をご覧いただければ幸いです)。加藤コーチはそういった輩とは違い、確固たる哲学を礎としている。

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 僕が井手口陽介を初めて見たのは、彼が4年生の時です。当時、陽介はストリートFCに所属していました。僕が監督だった油山カメリアーズの5年生と、ストリートFCの5年生で練習試合をしたんです。

陽介は4年生ながら5年生のチームに入っていて、他の子とはレベルが違う動きをしていました。「この子、凄いな」と思ったことを覚えています。後に日本代表までいくかどうかまでは分かりませんでしたが、とにかく別格でした。当時の陽介はFWでしたね。スピードと戦術眼と負けん気が、際立っていて、何度もウチのチームのディフェンス陣は切り裂かれました。

 6年生になった時、陽介はストリートFCから我が油山カメリアーズに移籍して来ました。ストリートFCの同級生がいなくなってしまったとのことでした。ウチのチームはドリブル主体で、足元の技術を徹底的に反復練習させます。足元で相手にボールを奪われない技術を身に着けさせることを、ひとつのテーマとしています。陽介も、そこを気に入ってくれたようですね。「ボールを持ったら前を向いて勝負しろ」と指導しました。ずっと、そう言い続けました。

 6年生で入団して来たばかりの頃の陽介は、ボールコント-ルも、キープ力もたいしたことは無かったのですが、徹底した練習で力を付けていきました。ボールを持ったら取られない技術を身に着けてほしかったんです。まぁ、ウチは90分の練習時間のうち、40分くらいドリブル練習をやるんですよ。直ぐにエースになりましたね。

 目の前の試合で勝つことよりも、将来花を咲かせたいというのが僕らの指導です。ですから、個を磨く、ストロングポイントを磨き上げることをモットーとしています。とはいえ、チーム自体は県大会に出られなくて、悔しい思いをしていました。

 練習を“やらされる”と感じる子が出ないように努めていますから、“楽しい”と言う子が多いチームではあります。後に陽介が、「油山カメリアーズの雰囲気や練習メニューは、ガンバのジュニアユース、ユースに似ていた」と発言してくれ、嬉しかったですね。

 静岡県藤枝市で生まれ、静岡学園高校、福岡大学でサッカーを続けた加藤は、指導者として、3つの点を自らに課している。

● きちんとお手本を見せて技術指導をする。

● 子供が指導者に対してストレスを感じないように接する。

● 子供のストロングポイントを徹底的に伸ばす。

 加藤の話を聞き、井手口陽介はいい時期に最適な指導者に出会ったのだと感じた。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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