200年に一人の天才と呼ばれたボクサーに訊く「王者のドーピング」

昨年、鬼籍に入ったプライアーと26年ぶりに再会した亀田昭雄

 本稿でお馴染みの元WBAジュニアウエルター級1位の亀田昭雄。「具志堅用高を超える200年に一人の天才」と謳われた男だ。彼に、山中慎介からベルトを奪ったルイス・ネリのドーピングについて質した。  

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 僕らがプロ生活を送っていた頃というのは、ドーピングに関する知識があまり無かったです。アマチュアは旧ソビエト連邦などがやっていたように記憶していますが、プロでは聞きませんでした。特に70年代、80年代の日本は、ドーピングの情報すら入って来ませんでしたね。

でも、統一ヘビー級王者のイベンダー・ホリフィールドがステロイドを使っていたように、今は検査にひっかからないように、禁止薬物を用いている選手が、結構、存在するように思います。

 ルイス・ネリが山中慎介のパンチを食っても倒れなかったのは、興奮剤の影響だと僕は思います。下の階級の相手にダウンさせられていたネリが、バンタム級の強打者チャンピオンである山中のパンチをもらっても耐え凌げたのは、薬物効果でしょう。

 僕が挑戦したアーロン・プライアーも、無尽蔵のスタミナが売りで、パンチを食った後に驚異的な回復力があり、薬物疑惑がかけられていました。アレクシス・アルゲリョとの第1戦では、試合中にペパーミントシュナップスを口に含み、それが問題になったことも事実です。

 僕自身、化け物のような強さのプライアーを「これは薬物の手を借りているんじゃないか?」と、当時は思ったものです。対戦中、プライアーの目が異様に光ったようにも見え、本気でそう信じていました。

 でも、試合から26年後に再会した際、彼は「やっていない」と僕に言ったんです。引退して事件を起こして逮捕され、犯罪者として塀の中に入って、聖書に出会って復活したプライアーが、かつての挑戦者を温かく迎え、その会話の中で「やっていない。お前との試合は正々堂々と闘った」と話したんですから、僕は「やっていなかった」と信じています。 

プライアーと僕の間には、死力を尽くして闘った者同士だけの拳の会話が存在しています。そういう相手に、嘘をつく必要はない。本音で語ることこそ、世界のベルトを賭けて闘った男への礼儀じゃないかな。26年ぶりに会って抱擁し、涙を流しながら僕の訪問を喜んだ彼から、人間としての温かみを感じました。その温もりが、僕の体の中には、まだ残っています。

 今でも僕はプライアーという最強の王者と闘えたことを誇りに思っています。そういう意味では、山中は可哀相ですよね。あれだけ努力して世界タイトルを防衛してきた男です。薬物の手を借りた人間にベルトを奪われたというのは、哀しいですよね。敗戦で心が折れている部分があるでしょうが、個人的にはネリと再戦させてあげたいという気持ちになります。もちろん、本人が決めることですが…。

※ 亀田昭雄とアーロン・プライアー再会の詳細については、拙著『神様のリング』(講談社)にまとめましたので、興味のある方はご覧ください。