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”200年に一人の天才”ボクサーが語る村田諒太の世界戦

林壮一ノンフィクションライター
ゴロフキンに勝って、最強の称号を得てほしい村田諒太(写真:アフロスポーツ)

"具志堅用高以上の天才""200年に一人の逸材"と謳われた、元日本ウエルター級チャンピオンの亀田昭雄。亀田は1階級落として、当時パウンド・フォー・パウンドTOP3に挙げられていた、アーロン・プライアーに挑んだ。

敵地、米国オハイオ州シンシナティに乗り込んでのファイトだった。

ファーストラウンドに亀田はプライアーからダウンを奪うが、以後、滅多打ちにされてKOで敗れる。

しかし、同ファイトから35年以上が経つ今も「最強の男と闘った誇り」を胸に、亀田は生きている。

その亀田昭雄に、12日後に迫った村田諒太の世界戦について尋ねた。

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5月20日、村田諒太はなるべくして、世界チャンピオンになるでしょう。

でも、それだけなんですよ。地元で開催される世界戦というのは有利ですよ。精神的に計り知れないアドバンテージがある。僕も可能なら日本でやりたかったですよ。

デビュー以来、村田は引かれたレールに乗っていればよかった。世界王者への筋書きができていた。村田が強いとか対戦相手が弱いとか、そういう問題じゃないんです。プロ転向以来、村田は絶対に勝てる試合をこなしてきた。ファンも村田が勝つことは分かっているんですね。マッチメイクに恵まれているんですよ。ビジネスだから仕方ない面もありますが…。

かつて、マービン・ハグラーというミドル級史上に名を残す素晴らしい王者がいましたが、彼は叩き上げで、マッチメイクに恵まれなかった。実力はあるのに、なかなかタイトルに挑戦できなかった。世界初挑戦も敵地で、勝っていたのに引き分けにされた。それでもコツコツ白星を重ね、自分を証明した。だからこそ、僕も含めて、見る人が感動したんですね。

僕自身もなかなか世界戦は決まらなかった。日本チャンプ時代は、やる気を失い、惰性でリングに上がったこともあります。でも、世界1位になって、やっと最強の男と闘えた。プライアーだったからこそ、自分を120%燃やすことが出来たんです。

今でも、いい加減な男に負けたんじゃない。俺は世界一の男と闘ったんだ! という自負があります。

一般のファンはどうだか知りませんが、僕のような玄人にとって、現時点での村田は、それほど魅力のある選手ではない。実力伯仲の強敵と対戦し、「どちらが勝つのだろう?」という試合をこなしていないからです。「あぁ、このカードならどうせ村田が勝つよ」という試合は、真剣に見ないでしょう。素人から見たら、凄いんでしょうけれども。

今は団体も、WBA、WBC、IBF,WBOがあって、そのうえ、WBAはスーパーチャンピオン、正規チャンピオン、暫定チャンピオンなんて作っていますから、一体、同じ階級に世界チャンピオンが何人いるのか分からないし、どの選手が最強なのかも分かり得ない。だから、ボクシングが衰退してしまったんだと僕は思っています。

今、日本に世界チャンピオンが誕生しても、話題にならないし、誰も知りませんよね。昔はやはり、名前と顔くらいは認知されていましたよ。これは、多すぎるチャンピオンが生まれることの弊害でしょう。本当に、世界チャンピオンの価値が下がってしまいましたよね。10年くらい前までの世界チャンピオンはやはり強かった。今は、強くなくても世界チャンピオンになれる時代なんですね。

村田は今回WBA正規王者になるでしょう。60~70%の確率で勝つと見ますね。ベルトを巻けば、自信も持つと思います。だからこそ、真のナンバーワンを目指してほしい。正規チャンピオンになったら、次は是非、WBAスーパー、WBC、IBFタイトルを持っているゲンナジー・ゴロフキンに勝って、最強になってほしいですね。是非、自分の殻を破った村田が見たいです。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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