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日本のエースが選んだスパイク

林壮一ノンフィクションライター
本田圭佑が新たに選んだカラーは「青い炎」

「悔しかった感情は時間が経てば経つほど忘れてしまいがちですが、今は誰よりもあの時の気持ちを大切にし、サッカーに真摯に向き合っています」

日本のエース、本田圭佑はそう語り、青い炎をモチーフとした新カラーのスパイクでホンジュラス戦のピッチに立つ。 

世界に通じるミズノの技術が、サッカーの舞台でも躍動している。ご存知、ACミランの背番号10、本田圭佑の足元にはミズノのマークが光る。日本のエースは高校時代からミズノのスパイクを好み、名古屋グランパスに入団すると同時に契約を結んだ。

「本田選手の使用するイグニタスは、2009年の12月に初代モデルの販売がスタートしました。<無回転>をコンセプトにしたシューズです。どういう風に蹴ったら無回転になるのかは、本田選手のキックを参考にしました。その本田選手の無回転シュートがワールドカップ南アフリカ大会で決まり、大きな注目を集めました。その後、本田選手が無回転を超える縦回転にトライしているという情報を得まして、本田選手と共に、縦回転に対応できるシューズを作ろう、ということになり、生まれたのが最新作の2013年7月に販売開始となったイグニタス3です」(ミズノ広報 木村和広氏)

初代イグニタスは、必ずしも一人の選手のためだけに開発された品ではなかったが、次第に本田圭佑が顔となっていく。

「あらゆるキックをサポートしたい」。ミズノ社はイグニタスを、そう掲げた。

本田のキックは、無回転の場合、左足甲の内側部分、親指の楔状骨あたりで蹴り、カーブはそれより足の先の部分でボールを扱う。無回転エリアには、回転のかかりにくい素材、カーブは回転がかかりやすい素材を配置した。

「本田選手に履いてもらう前に、社内で回転の掛かりにくい素材を吟味し、分析し、最適な材料を選びました。そのうえで、本田選手に提案して、実際に着用してもらって開発を進めて参りました。イグニタス初代モデルの頃は社内で研究しました。壁にパネルを貼付け、それに斜めからボールをぶつけて、その後の回転数を上からのカメラで測定したんです。ひたすらパネルを変えて、テストをしました」(木村氏)

「100種類以上のパネルを使っての実験を行いました。そのなかで回転の掛かりにくいパネルが、見つけ出されたんです。そして、選定したものを本田選手に履いてもらって、彼がどの位置で無回転キックを蹴っているのかを測定して、そのエリアに回転の掛かりにくいパネルを配置したのが、初代の特徴です」(ミズノ開発部 吉田陽平氏)

初代イグニタスから2への改良は、スピンをかけるエリアを広げ、無回転エリアも若干広くした。

蹴る折にボールが当たる、足の甲よりやや内側部分にバイオコントロールパネルを用いている。そのなかで、足首に近い楔状骨付近のパネルを、ミズノ社では「無回転エリア」と名付けた。

「初代の頃は、カーブと無回転ということで、キックのサポートをしていましたが、2で、バイオコントロールパネルの域を広げ、カーブ、無回転の蹴りやすい素材の領域を拡大したんです。で、3への進化として、縦回転という新しいキックの要素が入って来たんです。2011年の冬くらいから、この企画がスタートしましたね。当時は、まだ本田選手も縦回転のシュートの完成には至っていませんでした。なので、サポートしてほしい、ということになった訳です」(吉田氏)

2までスピンエリアと読んでいた部分に、縦回転をサポートする機能を持たせた「縦回転エリア」を新たに搭載した。

「材料自体は、初代と2でバイオコントロールパネルに使っていた、スピンの掛かりやすい素材を使っています。さらに、本田選手の縦回転の蹴り方を分析しました。本田選手は縦回転シュートを距離に応じて変えているんですが、それに応じて我々がリブと呼んでいる突起の高さや方向を細かく決めていきました。筑波大学にキックロボットというのがありまして、リブの高さの度合いやリブとリブの間隔などを分析していったんです。蹴ったときの痛みや、味の馴染みなど、色んなケースを検証しながら、本田選手とも話し合い、生まれたスパイクがイグニタス3です。企画段階から完成までに2年を要しました」(吉田氏)

初代イグニタスは販売数、年間7万足を目標としていたが、20万足を売り上げた。3は、20万足と定めたが、既に目標値を達成した。

「イグニタスのコンセプトは、あらゆるキックをサポートする、というものですから、試合の中で色んなキックを蹴って相手のゴールをこじ開けるようなプレーを求められているようなお子さんたちに是非、履いて頂きたいと思っています。弊社はお子さんのサイズだからといって、手抜きをするようなことは一切ありません。本物を体感して頂いて、それが将来活きてくればなと」(吉田氏)

「無回転パネル、縦回転パネル、本田選手とまったく同じものがついています。ですから、お子さんたちも、練習さえすれば、本田選手のようなFKを蹴られるようになる可能性があります。本田選手も黙々と練習を重ねたからこそ今があると思うので、ああいうキックが蹴りたいとコツコツ頑張る子が出たら嬉しいですね。我々も物作りを通じて、そういうお手伝いをさせて頂ければと考えています」(木村氏)

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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