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GMはドクター(1)

林壮一ノンフィクションライター
北海道大学医学部生時代にフォワードとしてインカレに出場した辻秀一GM

GMの辻秀一は、30歳まで内科医として慶応大学病院に勤務していた。

「30歳くらいまでやると、心筋梗塞や脳梗塞の患者さんを前にしても、一通り大丈夫になります。そんな時、ふと、パッチ・アダムスの映画を見たんです。アメリカに実在するお医者さんなんですけど、彼は赤い鼻をつけて、笑いで人々のクオリティー・オブ・ライフをサポートするんです。衝撃的でしたね。

病気や患者を治す人は沢山いる。それよりも、人々のクオリティー・オブ・ライフをサポートすることこそ、自分の道じゃないかと思ったんですよ。調べてみたら、慶応大学の日吉キャンパスに、スポーツ医学研究センターっていうのがありました。整形外科のドクターじゃなく、内科のドクターが病院を辞めて創られたということを聞いて、会いに行ったんです。『日本のスポーツ医学は整形外科の先生がスポーツ選手の怪我の治療ばかりやっているが、アメリカはそうではなく、ライフスタイル・マネージメント(健康医学)、栄養、休養、運動のサポート、生活のサポートをするんだ。病気にならないことこそがスポーツ医学なんだ、と言われました。ヨーロッパのスポーツ医学は、やはり整形外科じゃなくて、コンディションサポートだと。ピッチの上でいかにいいコンディションを作るのがスポーツ医学の醍醐味で、そのイリーガルがドーピングだと。ドイツとイタリアはコンディションサポートが進んでいて、日本でもいち早くやりたい』という説明を受けました。

俺がやりたいのはこれだ! と。次の日に内科の教授に、やりたいことが見つかったので辞めます、と辞表を出しました。1年半くらいやっているうちに、人間のクオリティー・オブ・ライフとか、コンディションサポートとかライフスタイル・マネージメントで一番大事なのはマインドだなと感じるようになって、心作りをしたいなと考えたんです。日本には病んだ心の専門家はいるんですよ。精神科とか心療内科とか。ところが、より良くなりたいという心の専門家はいないしね。

そこで、アメリカの応用スポーツ心理学会というのに行ってみたら、これが超面白くて、スポーツって心とパフォーマンスと結果が分かりやすく現れる、それを色んな分野で応用しようという、スポーツ心理学の先生が沢山いらしたんです。ニューヨークのジュリアード音楽院でメンタルトレーニングするとか、昨日までコロラドスプリングスにいた先生が明日からWall Streetでビジネスマンのメンタルトレーニングやるんだ、みたいな。NBAでこんなチームワークトレーニングやったけど、MLBでは全然上手くいかないんだけど皆、どう? みたいな凄い学会だったんです。これだ!!と思ってね」

医師としてのキャリアを活かしながら発足したのが、今シーズンからNBDLに加盟した東京エクセレンスである。

「スポーツというのは医療であり、芸術であり、コミュニケーションであり、教育であるというのが僕の考え方なんです。元々、欧米人のスポーツの捉え方もそうなんですよ。僕は、日本でもっと分かりやすい言葉普及したいと思って、医療なので<元気>、芸術なので<感動>、コミュニケーションなので<仲間>、教育なので<成長>ということで、それをスポーツの持つ4大価値のキーワードとしました」

つづく

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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