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戦地取材経験者が日本のウクライナ報道に思うこと

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
ロシア軍に攻撃されたキーウのショッピングセンター(写真:ロイター/アフロ)

先日配信した記事、"その「善意」は薬か毒か―有働アナがウクライナ中継に「やめましょう」、戦場記者らの評価は?"(該当記事)は、非常に大きな反響があった。多くの方々に記事を読んでいただいたことに感謝したい。予想していた通り、筆者の記事には賛否があった。そこで、本記事では、読者の皆さんからいただいた意見にもコメントしながら、戦争報道のあり方について考えていきたい。

*本記事は有料記事であるが、SNS等での様々な意見へのレスポンスでもあることから、記事の約半分を無料公開する。

◯中継は危険だったのか?

 筆者の記事に対する賛否のうち、否の意見は「もし退避せず中継中に何かあつたらどうするのだ?」「中継中の記者が空爆に巻き込まれたりしたら、お茶の間が凍りつく」などといったものだ。

 ただ、結論から言えば、中継の最中に記者が攻撃に巻き込まれる可能性は低い。件の記事にも書いた通り、中継を行う際には、比較的安全な場所を確保するのが定石だからだ。多くの場合、空爆等での攻撃目標となるのは、軍事施設や政府関連施設、発電所などのインフラや地元メディアの放送局、その他ランドマーク的な施設などである。一般市民が暮らす住宅地が攻撃される場合もあるが、その場合、攻撃する側は、人々により恐怖と苦痛を味あわせるため、街の中心部の人口密集地を狙うことが多い。安全確保の方法としては、そうした攻撃目標となりうる施設や場所から、やや離れたところに拠点を置く、ということがあるだろう。

 また、newszeroで有働由美子アナウンサーが現地で取材する佐藤和孝氏の中継を止めた際に、空襲警報が鳴り響いていたことを指摘する意見もあったが、一般に空襲警報はかなり広範囲に鳴り響くものなので、状況やその時にいる場所にもよるが、上記のように比較的安全な地域にいるならば、そう神経質にならないでもよいものである。とは言え、戦地の状況は常に流動的なので、常に取材に協力する現地人コーディネーターや助手等から最新の状況や彼らの見解を聞き、安全確保の判断に役立てることが重要である。郷に入れば郷に従えという諺の通り、現地の人間の言うことに耳を傾けることが重要なのだ。

 攻撃する側の姿勢にもよるが、様々な外国人記者が集まるホテルは、「そこに自国民の記者がいるから攻撃するな」と各国の大使館が攻撃している側の軍に通告する場合もある。そうしたホテルを拠点にすることで、安全を確保することも多い。筆者も、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの猛攻撃(2014年)を取材した際は、そうした外国人記者達の集まるホテルを拠点としていた。そのホテルに近くの港が爆撃され、衝撃波で窓ガラスが割れたりもしたが、そのホテル自体がイスラエル軍に攻撃されることはなかった。

爆撃に備え、最も頑丈なホテル1階のエレベーターホールで夜をあかす記者達。2014 年パレスチナ自治区ガザにて  筆者撮影
爆撃に備え、最も頑丈なホテル1階のエレベーターホールで夜をあかす記者達。2014 年パレスチナ自治区ガザにて 筆者撮影

ただし、イラク戦争で、米軍がイラク首都バクダッド入りした際に、外国人記者達が拠点としていたホテルが米軍に砲撃され、ロイター通信の記者*が死亡するということもあった。

*亡くなったのは、タラス・プロチュクさん。ウクライナ人の記者だった。

 つまるところ、ある程度は危険回避をしても、絶対の安全は保障されない。厳しい環境の中で取材を続けてきた猛者であっても、怪我を負ったり、最悪、命を落とすこともある。だが、そうしたリスクも含め、紛争地取材なのだ。無論、安全確保も仕事の内なので、それはそれで徹底的にやるが、万が一のことがあった場合には、それは殉職ということであろう。少なくとも、筆者はそう考え、仕事をしてきた。

◯戦争の実態を見せない戦争報道

 筆者の記事への「否」の意見にもあったが、中継の最中に記者が攻撃に巻き込まれたら、確かに視聴者はショックであろう。だが、それが戦争というものである。思うに、日本の戦争報道は、戦争の実態をあまりに隠していないか。戦争とは、残酷なものだ。爆弾が落ちれば、人間の身体は無残に引きちぎられる。筆者は取材の中で地獄の様な光景を見続けてきた。しかし、そうした戦争の実態の多くは、日本の報道機関、特にテレビは避ける傾向にある。戦争の現場で起きていることと、日本の報道での自主規制の乖離には、筆者も長年、複雑な思いを抱えてきた。とりわけ、かつてのイラク戦争のように、日本の政府もまた戦争を支持する状況にあって、報道機関が自主規制し、戦争の残酷さを十分に伝えないことは、ある意味、戦争への加担にすら思えたものだ。報道の目的は、視聴者や読者にショックを与えること、それ自体は目的ではないのだろう。ただ、民主主義国家において、自国の政府が戦争を支持するのなら、その戦争で引き起こされていることについても、報道機関は包み隠さず見せるべきではないのだろうか。その上で、有権者は政府の方針の是非を考えて欲しいとも思う。そのような意味では、今回のロシア軍によるウクライナ侵略も似たような構図がある。

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フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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