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世界平和の訴えに矛盾、広島市の松井市長が女性記者を恫喝―真っ当な質問に逆ギレ #ガザ

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
会見する広島市の松井市長 同市YouTubeより

 毎年8月6日の原爆の日に広島市で行われる平和記念式典。核兵器の恐ろしさ、一般市民を無差別かつ大量に殺害することの非人道性、普遍的な平和の尊さを訴える、国際的にも非常に重要な式典だ。だが、こともあろうか広島市の松井一実市長の言動によって、式典の普遍性・正当性に対し、世界の国々から疑問を持たれることになるかも知れない。

 今月24日の会見で、松井市長はパレスチナ自治区ガザへの猛攻撃を続けるイスラエルを例年通り招待すると明言。これについて、会見でフリーの女性記者が「ウクライナ侵攻で、ロシアやベラルーシに対し式典への招待を見送っている中、イスラエルを招待することはダブルスタンダード(二重基準)と受け取られるのではないか?」と質問。これに対し、松井市長は「ダブルスタンダードではありません!」「勝手に(ダブルスタンダードだと)想像しないで下さい!」と女性記者を恫喝するかのように声を荒げたのだ。

〇質問を遮り激昂

 24日の会見の様子は広島市のYouTubeでも確認できる。ロシアとベラルーシを招待しない理由について、松井市長は「(両国が式典に参加することは)円滑な式典の進行を妨げる」「日本政府から話を聴いて判断した」と説明した。また、イスラエルを招待する理由について、「イスラエルを招待しても、ロシアやベラルーシのようなことが起きないだろうと判断した」「紛争地域であるかないかにかかわらず、全ての駐日大使や各国の代表者に招待状を送付している」と、述べている。

 ただ、昨年10月以降、イスラエル軍の攻撃によって、3万4000人以上のガザの人々が殺され、しかもその大多数が女性や子ども等の非戦闘員とされる。また、つい先日もガザ中部のナセル病院と北部のシファ病院で数百もの遺体が発見され、これらがイスラエル軍による虐殺された患者や医療関係者、避難民である可能性が高いことから、イスラエルへの国際的な批判が高まっている。

 ロシアやベラルーシを式典に招待しないことについては、両国への制裁でG7諸国と足並みをそろえる日本政府側に意向に配慮したものと思われるが、仮に松井市長の説明を額面通り受け取ったとしても、今年の式典の場にイスラエル政府関係者の姿があるならば、「ダブルスタンダード」だと世界の人々に受け取られる可能性は否定できないだろう。

 24日の会見では、まさにダブルスタンダードだと受け取られる可能性について、フリーランスジャーナリストの小山美砂さんが質問したのだが、その真っ当な質問に対し、松井市長は小山さんの質問をさえぎって「ダブルスタンダードの姿勢は取ってません」「あなたの解釈です」と語気を荒げたのだった。

〇世界を分断するダブルスタンダード

 上述のような松井市長の言動は問題の深刻さを全く理解していないと言わざるを得ない。仮に松井市長の説明通りだとしても、「ロシアとベラルーシの参加には(欧米諸国や式典の参列者などから)批判や抗議、ボイコットをされかねない」という一方で、「イスラエルが参加しても問題は生じない」ということであれば、それこそ、ガザ攻撃とウクライナ侵攻での欧米諸国のダブルスタンダードを浮き彫りにするかたちとなる。その時点で、式典の普遍性・正当性に傷を付けることになるだろう。

 ガザ攻撃とウクライナ侵攻でのダブルスタンダードは、この後の世界の在り方をも左右する極めて深刻な問題だ。欧米諸国の国際的な威信を傷つけ、影響力を削ぐだけでなく、「法の支配」と人権を軽視する国々に利することになる。AP通信(先月22日付)が報じるところによれば、アイルランドのレオ・バラッカー首相は、以下のように発言したという。

「特にグローバル・サウスの多くの国々が、ウクライナ対パレスチナに関するヨーロッパの行動をダブルスタンダードと解釈しているため、特にウクライナを防衛する我々の努力が損なわれている。グローバル・サウスの国々の言い分は一理あると思う」

https://apnews.com/article/eu-un-palestinians-israel-gaza-ukraine-support-f39d88f1308204b099f0e5b84c83b4ff

 ウクライナ侵攻を食い止めるためには、ロシアへの経済制裁を強化する必要があるが、制裁はG7諸国中心で十分な効果を得られていない。より多くの国々に対ロシア制裁に加わるよう呼びかける必要があるが、G7諸国特に米国がイスラエルに巨額な軍事支援を行い、かつ国連安保理等でも擁護し続ける中、道理として全く説得力が無い状況なのだ。

〇広島市の果たし得る役割を大切にすべき

 広島市が式典にイスラエルを招待することは、結果的に反ロシア・親イスラエルの米国に「屈した」かたちにも見え、イスラエルに誤ったメッセージを送りかねないという問題点もある。イスラエルはいくら国際社会から反感を買っても、世界最強の国家であり最大の支援国の米国さえ味方してくれるのなら、何をしても良いかのように振舞っているからだ。また、イスラエルが広島市に招待されたことについて、「我が国が平和を望む国家であることが、広島市にも認められた」等と、ガザ攻撃正当化のプロパガンダに使う恐れもある。

 これらの諸問題に対し、松井市長の説明は全く答えていないのだ。それは、式典が単なる恒例行事ではなく、世界的に極めて重要なメッセージを発信する場であることをも、軽視することになるのではないか。

 本件について、実質的に式典を企画・運営する広島市の市民局市民活動推進課は、筆者の取材に対し、「イスラエルは招待するが、ガザ停戦を求めるメッセージも送ろうと考えている」とコメントした。上述したように、そもそもロシアとベラルーシを招待しない一方でイスラエルを招待すること自体、問題なのであるが、どうしてもイスラエルを招待するのであれば、同国にメッセージを送ることだけでは不十分だ。例えば、G7諸国にもイスラエル擁護を見直すことを求めるメッセージを送り、それを公表するとか、8月6日当日の市長のによる平和宣言の中でも、国際人道法に反する行為、すなわち非戦闘員である市民を攻撃し、大量に殺害するという点において、広島への原爆投下のみならず、現代の戦争での戦争犯罪、とりわけイスラエルのガザ攻撃について言及し、批判するくらいのことをする必要があるのではないだろうか。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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