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イスラエル政府高官への国際逮捕状、バイデン米大統領はどこまで庇えるか?

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
米国のバイデン大統領(左)とイスラエルのネタニヤフ首相(右)(写真:ロイター/アフロ)

どんなに世界の人々が憤って抗議しても、世界最強の国家であり、国連安保理常任理事国である米国さえ味方してくれるならば、パレスチナの人々にいかなる残虐非道を行っても問題ない―そうしたイスラエルの戦略が、昨年10月からのガザ攻撃で自壊しつつある。今週、複数の海外メディア大手が一斉に報じたのは、国際刑事裁判所がネタニヤフ首相らイスラエルの政府関係者らを戦争犯罪で逮捕状を出すかもしれないということだ。さらに、イスラエルの最大の味方のはずの米国でも、とりわけ若者や民主党支持者の間で、ガザ攻撃に反対する声が熱を帯び、各地で抗議活動が行われている。イスラエルを支持・支援してきたバイデン大統領に対する批判も高まっており、この秋の大統領選に向けて、露骨なイスラエル支持・支援を軌道修正することが現実味を帯びてきた。


〇イスラエル政府高官への逮捕状?

 昨年10月からのパレスチナ自治区ガザへのイスラエル軍の猛攻によって、既にガザでの犠牲者数は3万4000人以上にのぼっている。しかも、その大部分が女性や子ども等の非戦闘員だと言われ、医療関係者や国連機関の職員、欧米の人道支援団体のメンバーもイスラエル軍の攻撃によって殺されている。住宅密集地へ大型爆弾を大量に投下したり、病院で医療従事者や患者等を虐殺した疑惑が明らかになったりと、むしろ、イスラエルを擁護する方が難しい状況であったが、今、国際刑事裁判所(ICC)がどのような動きをするかに注目が集まっているのだ。

 ここ数日、ロイターやAPなどの通信社、米紙ニューヨーク・タイムズやワシントンポスト、中東の衛星テレビ局アルジャジーラ等が報じたところをまとめると、ICCが近くイスラエル政府高官ら及びイスラム組織ハマス指導者ら双方に逮捕状を発付する可能性があるとして、ネタニヤフ政権は強く懸念しているとのことだ。また、米ニュースサイト「アクシオス」の報道によれば、イスラエルのネタニヤフ首相は米国のバイデン大統領との電話会談で、この件での懸念を伝え、ICCがイスラエル政府関係者に逮捕状を出すのを阻止するよう求めたのだと言う。

 ICCは、世界各地の戦争や民族紛争などで非人道的な行為をした個人を捜査し裁くための国際機関だ。民族などの集団を破壊する意図を持って危害を加える「ジェノサイド」や、一般市民への組織的な殺人や拷問、人身売買などの「人道に対する犯罪」、戦争での民間人の保護や捕虜の扱いなどを定めた国際人道法に反する「戦争犯罪」をその管轄とする。その犯罪が行われた国・地域で、現地の司法機関が加害者を裁くことが不可能、もしくは裁く意思のない場合に、国境を超えて裁くことがICCの役割なのだ。


〇ターゲットはイスラエルの「飢餓戦略」か

 イスラエル政府高官らに対し、ICCはいかなるかたちで逮捕状を出すのだろうか。これについては、国際人権団体「ヒューマンライツ・ウォッチ」の元代表で著名な人権活動家/法律家であるケネス・ロス氏の論考が大いに参考になる。ロス氏は英紙「ガーディアン」(4月29日付)への寄稿の中で「ICCのカリム・カーン主席検察官が標的とするとすれば、ネタニヤフ首相によるガザの民間人に対する飢餓戦略だろう」と述べている。ガザ攻撃開始以来、イスラエルはガザへの支援物資の搬入を極端に制限しており、人為的な飢餓をガザの人々に対する攻撃の手段として使っている。ロス氏も記事中で引用しているように、ガザ北部の数十万の人々は深刻な食料不足に苦しんでおり、によれば、1日の摂取カロリー必要量の10分の1程度しか得られていないと、国際人道団体「オックスファム」は訴えている。既に餓死する子ども達もいるなど、極めて酷い状況だ。

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フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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