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「夫を、娘を、息子を、お父さんを返して」難民鎖国日本に訴え、入管収容施設で拘束のクルド難民の家族ら

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
お父さんを返して!と叫ぶクルド難民の少女。東京入国管理局前で筆者撮影

 トルコで少数民族として迫害されているクルド人の人々が、日本に逃れてきたものの、 法務省・入国管理局は、彼らを難民として認めず、収容施設に拘束している問題で、先週2日、クルド難民の女性と支援者、弁護士らが、外国人記者クラブで会見を行った。「(収容施設への拘束で)家族が分離されてしまっている」とクルド難民の女性達や支援者らは訴える。

〇拘束中の難民女性の母が涙の会見

 6歳の時に来日し、日本で小中高と学校に通い、結婚もしたクルド難民の女性メルバン・ドルゥースンさんが昨年11月末から東京入国管理局に拘束されている問題について、このYahoo!ニュース個人で報じてきた(関連記事)。先週2日の会見では、メルバンさんの母親で自身もトルコから逃れてきたハティジェさんが、涙ながらに「娘を解放してください」と訴えた。

外国人特派員協会で会見するハティジェさん。筆者撮影。
外国人特派員協会で会見するハティジェさん。筆者撮影。

 メルバンさんは、パニック障害を患っており、薬で発作を抑えることが必要だが、東京入管は薬の持ち込みをさせず、メルバンさんは身体的・精神的に衰弱している。そのため、家族や支援者らは、メルバンさんの早期の解放を求めている。ハティジェさんや支援者によれば、メルバンさんは自傷行為を繰り返しており、面会時に彼女の手は血だらけだったという。

メルバンさん(中央、右)とハティジェさん(左)。親族提供。
メルバンさん(中央、右)とハティジェさん(左)。親族提供。

〇難民家族の分離、深刻

 また、この日、会場には、他にも夫や息子が東京入管に拘束されているというクルド難民の女性達も駆けつけ、会見後、筆者にそれぞれの窮状を訴えた。

 アジゼさんは、夫が2017年10月から東京入管に拘束されているという。8歳と6歳の娘、1歳の息子を一人で面倒をみなくてはいけない。アジゼさんは、尿道結石を患っており、昨年10月以降、2度、救急車で搬送されている。今月中にも手術のための入院が必要とのことだが、「その間、誰が子どもの面倒をみるのでしょう?」と訴える。「夫が拘束されて、収入も断たれてしまいましたので、医療費もどう工面したらよいのか、わかりません…」(アジゼさん)。アジゼさんの夫も、胃に持病を抱えるが、常飲薬の持ち込みが認められず、入管側が処方する薬では効果がないという。「実験動物のように薬のテストをされている気分だ」とアジゼさんの夫は憤っているという。

ハティジェさんの会見を見守るクルド難民の家族ら。筆者撮影
ハティジェさんの会見を見守るクルド難民の家族ら。筆者撮影

 ネルギスさんの夫は、クルド独立運動に関わっていたため、トルコ当局から弾圧される恐れが最も高い。それにもかかわらず、法務省・入管当局から難民認定されず、昨年10月末から東京入管に拘束されている。ネルギスさんは「夫は椎間板ヘルニアを患っています。入管内では、治療ができないので、心配です」と訴える。また、ネルギスさんも、11歳の息子、6歳と4歳の娘の面倒を一人でみないといけないため、「育児ノイローゼになっている」(支援者談)という。

 ギュレイさんの息子は、「クルド人同士で殺し合いをしたくない」と、独立派クルド人勢力を掃討するトルコ軍への兵役を拒否。日本に逃げてきたものの、昨年11月に東京入管に拘束された。ギュレイさんの息子は、収容所での拘束や入管職員らの暴言などから、強いストレスを感じており、吐血したり、自殺願望を口にするようになっているという。

 拘束された本人だけでなく、その家族も、精神的・身体的にも一層の困難を抱え、経済的にも困窮する。ハティジェさんと共に会見した市民団体「SYI(収容者友人有志一同)」はそう強調する。

「お父さんを解放して」とクルド難民の少女が筆者に渡したメッセージ。「ガムゼ(少女の名)より はさん(父の名) はなして おとうさん はなしてください おねがいします。おかあさん こども さんに(3人)で たいへんです くるどじん みんな また つかまった おねがいします くるどじん みんな はなしてください。」
「お父さんを解放して」とクルド難民の少女が筆者に渡したメッセージ。「ガムゼ(少女の名)より はさん(父の名) はなして おとうさん はなしてください おねがいします。おかあさん こども さんに(3人)で たいへんです くるどじん みんな また つかまった おねがいします くるどじん みんな はなしてください。」

〇なぜ法務省はクルド難民を絶対に認めないのか?

 「法務省や入管が難民として認めていないのだから、収容施設への収容は当たり前」―筆者がこれまで配信した難民関連の記事に対し、ネット上では、法務省・入管の対応を擁護する意見も少なからずあった。今回のハティジェさんらの訴えに対しても、そうした反応があることが予想される。しかし、日本の難民認定、特にトルコ籍クルド人の難民認定審査には、非常に大きな問題がある。

 「トルコ籍クルド人に対し、日本の法務省・入管当局は異常に厳しく、今までトルコ籍クルド人が難民として認定されたケースは一例もない」と解説するのは、ハティジェさんと共に会見した大橋毅弁護士(クルド難民弁護団事務局長)。「法務省は定期的に、トルコ治安当局とテロ対策で協議を行っていて、そちらが法務省の本来の業務。もし、トルコ治安当局がやっていることを人権侵害として認定したら協力関係にヒビが入ってしまうということです」(同)。

大橋毅弁護士。筆者撮影。
大橋毅弁護士。筆者撮影。

 だが、トルコでのクルド人の人権状況は極めて深刻だ。過去数十年、トルコ当局はクルド人に対して、独自の言語を使わせない、村を焼き払い、強制移住させるなどの弾圧を行ってきた。2015年夏には、トルコ軍と独立派のクルド人勢力との間での和平プロセスが崩壊。トルコ南東部などのクルド人が多い地域で、掃討作戦が行われるなど衝突が続いている。こうした現地情勢が、難民認定に反映されないこと自体、そもそもおかしなことなのだろう。大橋弁護士は「難民認定は、法務省ではなく、独立した権限を持つ別の機関にやらせるべきでしょう」と指摘する。

 拷問禁止委員会や人種差別撤廃委員会など、国連の人権関連機関からも、再三、是正勧告を受けている日本の法務省・入管。政府与党は勿論、野党や有権者も、問われているのは、日本がいかに人権を尊重するか否か、ということを意識すべきだろう。

(了)

*本記事で紹介したクルド難民の名前、写真等は、筆者が本人の許可の下、掲載している。これらの無断使用、特に誹謗中傷目的での使用を厳しく禁じる。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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