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「赤ちゃんが欲しかったのに」新婚女性を拘束、病状悪化、脅迫でトラウマ―難民虐待疑惑の東京入管 続報

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
クルド難民女性メルバン・ドゥールスンさん(写真中央・右) *親族提供

 6歳の時に、少数民族のクルド人への人権弾圧が横行するトルコから、両親に連れられて来日したトルコ籍クルド人の女性メルバン・ドゥールスンさん(22歳)が、東京入国管理局に拘束され、虐待を受けているのではないかという疑惑についての続報が入った。独房から雑居房へと移されたものの、パニック障害を抱えるメルバンさんに、彼女の体質にあった薬が与えられない状況が続いており、発作も起こしているという。

〇収容中に病状悪化「赤ちゃんが欲しかったのに…」

 入管の収容施設に拘束されているメルバンさんにとって、自身の体質にあった薬の持ち込みが許されないことは、死活問題だ。メルバンさんは、筆者の取材に対し、次のように語る。

「パニック障害には、波があって、今、とりあえず落ち着いていますが、急に酷くなることもよくあります。先日も発作を起こしてしまいました。今、望んでいることは、とにかく入院させてほしいということです」

 メルバンさんは、18歳の頃、パニック障害を発症。その後、根気強く治療を続け、以前は頻繁に起こしていた発作も、月に一回あるかないかまでに頻度が減っていたのだという。

「ここに連れてこられる前は、体調も良くなって、だんだん薬の量も減らしていくことができそうでした。でも、昨年の11月末に入管の収容施設に連れてこられ、薬を飲めなくなってしまったので、また病状が悪化してしまいました」

 メルバンさんは昨年6月に、在留・就労許可を得ている在日外国人の男性と結婚。病状が回復したら、子どももほしいと望んでいた。ただ、ネックとなるのが、メルバンさんが治療のために使っていた薬だ。一般に、パニック障害の治療には、抗うつ剤や抗不安剤が使われているが、そうした薬の一部には、胎児に悪影響を及ぼすリスクが懸念されるものもある。メルバンさんは、「私は子どもが好きだし、お母さんになりたかったんです。薬はお腹の赤ちゃんに悪いかもしれないので、少しずつ薬の量も減らしていたところだったんです」と嘆く。「それなのに、収容施設に連れてこられ、薬をいきなり断たれてしまったことで、症状が逆戻り。本当につらいです」(メルバンさん)。

〇入管職員のパワハラにトラウマ状態

 必要な薬が与えられないことに加え、入管施設での状況自体がメルバンさんを追い詰めている。SNS上などで、メルバンさんの解放を東京入管に求める呼びかけが行われていることについて、入管の職員がメルバンさんに対し、こうした呼びかけをやめさせるよう、脅迫した疑いがあることは、先日配信した記事でも触れた。

「B466とのバッジをつけた入管の女性職員が、先日の夜、私のところに来て、『あなたの解放を求めるFAXや電話をやめさせなさい。さもなければ、家族や友人との面会も出来なくするし、自由時間に共同スペースに行くこともできず、ずっと独房にいることになりますよ』と言ってきたのです。でも、私は脅しには屈したくないので『嫌です』と断りました。すると、その職員は突然『応援してもらって良かったなぁー、応援してもらって良かったなぁー』と大声で何度も叫び始めました。とても不気味で、怖かったです」(メルバンさん)。

出典:2018年2月7日付の配信記事

 メルバンさん解放を求める人々からの苦情もあり、その後の数日間は、職員番号「B466」の入管職員は姿を現さなくなったが、それも束の間で、被収容者の点呼などの場面で、「B466」は再び、メルバンさんの前に現れるようになったのだという。

「B466の顔を見ると、あの晩に脅された時のことがフラッシュバックして、体調が悪くなります。B466と会った時、心臓が苦しくなったので、脈拍を測ってみたら、普段の倍以上になっていましたし、その後、発作も起きました」(メルバンさん)。

 メルバンさんにとって、「B466」とのやり取りはトラウマとなっているようだ。目の下に大きなクマがあり、顔色も悪いメルバンさん。悪夢にうなされ、眠れない日々が続いているのだという。「B466に脅されてから、入管の職員に殺されそうになったり、拷問されたりする悪夢にうなされるようになり、眠れなくなりました。他にも、凶暴な獣達に喰いつかれたり、地震で収容施設が崩れ、私も(雑居房のある)10階から、地面に落ちるという悪夢にも苦しめられています。だから、ほとんど眠れなくて、つらいです」

 入管の無神経な対応に、メルバンさんの支援者も憤っている。

 メルバンさんの置かれている状況について、筆者は東京入管に事実確認を求めているが、「個別の案件にはお答えできない」として、東京入管側は具体的な回答をしていない。ただ、薬の差し入れに関しては、「医師の診断書と共に持ち込むことはできないか」との筆者の質問に対し、東京入管側は「ご提案は関係部署に知らせ確認しているところ」だという。

 東京入管も認めるように、収容施設の被収容者の健康や生命について、入管側は責任がある。メルバンさんのケースでも、せめて彼女の体質にあった薬の差し入れを認めるべきであるし、そもそも、入管側がメルバンさんに強いストレスを与え続ける状況にあるならば、外部の病院での入院を認めるべきだ。

〇日本育ちの若者達へ人道的配慮が必要では?

 そもそも、なぜ、メルバンさんが東京入管の収容施設に拘束されなければならないかも、大きな問題であろう。詳しい拘束の理由については、メルバンさんの弁護士が入管側に情報開示請求を行っているところであるが、メルバンさんは「これまで、ずっと入管の指示通りに手続きをしてきたし、犯罪などにかかわったわけでもありません。入管の職員に聞いても『あなたがガイジンだからだ』と言われるだけ」と不可解さを訴える。

 メルバンさんのケースの場合、トルコ籍クルド人に対し異常なまでに厳しく、明白な迫害の根拠があっても、絶対に難民として認定しないという法務省・入国管理局の恣意的な難民審査の問題*と共に、幼少時に親に連れてこられた難民の若者をどのように扱うか、という問題もあるだろう。メルバンさんは「子どもの頃、私は自分の意志とは関係なく、親に日本に連れてこられ、日本で育ち、学校にも通いました。今、トルコに戻れと言われても、両親や夫などの家族は皆、日本にいますし、何のつてもないトルコで生活を一から始めていくことは、ほとんど無理だと思います」と訴える。

*日本の難民認定において、トルコ籍クルド人が難民として認定された事例は過去に一つもない。一説には、親日国トルコへの外交的配慮があるとも言われる。

東京入管。収容施設もこの建物内にある。筆者撮影。
東京入管。収容施設もこの建物内にある。筆者撮影。

 難民ではなく、移民についての制度であるが、米国では、幼少時に親に連れてこられた移民の若者に対しての救済措置として、「DACA(Deferred Action for Childhood Arrivals)」という制度がある。これは、「米国に入国時に16歳未満であったことや制度導入時点で31歳未満であったこと」「米国内で在学中か高校卒業資格を持っていること」「重大な犯罪歴がないこと」等を条件に、移民の若者達も、更新可能な在留許可と就労許可を与えられ、米国籍の若者達と同じように教育費の支援を受けることができるというものだ(関連記事)。このDACAの根底にあるのは、子どもの頃のことに罪はなく、米国しか知らない若者達を国外追放することは、あまりに酷い、という人道的配慮である。

 メルバンさんのようなケースにおいても、トルコ籍クルド人に対し異常なまでに厳しい難民審査や、医療を必要とする人を適切な対処もしないまま、長期に拘束するという入管行政を見直す他、幼少期に日本に来て、日本で育ち、出身国に帰ることが難しいケースに関しては、人道的配慮で、日本での在留許可を認めることが必要なのではないか

 いずれにせよ、本件について、筆者としても引き続き注視していくつもりだ。

(了) 

*本記事では、筆者がメルバンさん本人及びご家族の了承を得て、実名・顔写真を公開している。本記事をSNS等でシェアするなどの場合を除き、メルバンさんの顔写真の無断使用、とりわけメルバンさんを誹謗中傷する目的での写真の使用は、厳しく禁じる。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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