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【イスラム国】【邦人人質】安倍政権とイスラエルの接近で高まるリスク

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
首相官邸のウェブサイトから
首相官邸のウェブサイトから

イスラム国(ISIS)*と観られる組織が、邦人二人を拘束、「身代金2億ドルを払わなければ、72時間以内に人質を殺害する」という動画を公開した。邦人二人が解放されることを筆者も祈る。今回の事件が、安倍首相がイスラエル訪問中に起きたというのは非常に象徴的であり、今後の日本が直面し得る状況を示しているようにも思える。ISISが邦人を人質にしている大きな理由として、動画でも語っているように先日、安倍首相がISIS対策として中東諸国へ約2億ドルの財政支援を表明したことが大きいのだろう。だが、イスラエルとの関係強化により、こうしたテロリスクが高まる可能性がある。

○ISISとイスラエルの関係

ISISは、シリアやイラクでの勢力維持/拡大がトッププライオリティーであり、イスラエルへの攻撃の優先度は高くない。そもそもシリアのアサド政権、そして同政権を支援するイランを嫌うイスラエルとISISは、利害が一致するとも言えるくらいだ。だが、昨年7月、ISISのツイッターアカウント(現在は凍結)でイスラエルのパレスチナ自治区ガザへの侵攻を批難、イスラエルへの攻撃も示唆しており、またISISの一部がイスラエルでの活動に向けて動いているという報道もあるなど、ISISとイスラエルが具体的に敵対していく可能性もある。

○安倍・ネタニヤフ会談直後に事件が起きた意味

或いは、意図的にこのタイミングを狙い、ISISが仕掛けてきた可能性もある。それは今、仕掛けることにより、安倍首相がイスラエルを訪問中であり、ネタニヤフ首相と日本とイスラエルの関係強化について会談したことを、中東世界に知らしめることだ。実際、今回事件に関して会見している安倍首相の写真、映像では背景にイスラエル国旗が大きく写ってしまっている。ISISが意図的に狙ったにしろそうでもないにしろ、日本とイスラエルの接近を示す写真、映像は中東の人々に強烈な印象を与えるだろう。一般的に日本は中東では根強い人気がある。それは、日本製品のブランド力に加え、欧米と異なり、日本が中東では戦争を起こしたことがない、と観られているからだ(厳密には日本はイラク戦争を支持・支援しており、当時イラク現地では、そうしたことへの反発もかなりあったが…)。だが、中東の人々にとっての潜在的、或いは直接的な敵国イスラエルと、しかも昨夏ガザ攻撃があったばかりだというのに、安倍首相がネタニヤフ首相と笑顔で握手、関係強化で合意したところを観れば、少なからず反発を覚える人々も中東ではいるだろう。つまり、ISISにとっては、中東の人々に自らの「正当性」=中東の人々が好きな日本は実はイスラエルと組んでいるような国なんだ、だから自分たちは日本に鉄槌を下すのだ、ということアピールすることができるのである。

○ISIS以外の過激派も反応する?

また、今回の安倍ネタニヤフ会談で、ISIS以外のイスラム圏の過激派に、日本がターゲットリストに加わる可能性も出てきた。もし、日本がイスラエルとの交流を盛んにする一方、イスラエルのガザ攻撃などの戦争犯罪を国際刑事裁判所などで追及するパレスチナ側の動きを妨害するようなことがあれば、さらに日本のイスラム圏での評価は下がり、場合によっては敵対心を招く恐れすらもある。安倍首相との会談で、イスラエルのネタニヤフ首相は「日本もこれからテロの脅威にさらされるかもしれない」と言ったとのことであるが全く皮肉なことこの上ない。国際人道法違反の戦争犯罪を繰り返す、中東の嫌われ者と関係を深めるということは、それなりにリスクを高めることになるのだ。

  • 日本でよく使われる「イスラム国」という表記に関して、スン二派イスラム教の最高学府であるアズハル学院は「テロ組織が“イスラム国”という名称を使っていることはイスラムへの冒涜」と批難し、“イスラム国”という呼び方をメディアは使わないよう、呼びかけている。そのため、本稿では”ISIS”という表記を採用している。
フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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