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障害児の母親として植松死刑囚に言ってやりたいという山田監督の映画『わたしのかあさん―天使の詩』

篠田博之月刊『創』編集長
『わたしのかあさん―天使の詩』c:現代ぷろだくしょん

 3月30日から新宿K's cinema、立川シネマシティほかで公開される映画『わたしのかあさん―天使の詩』の山田火砂子監督にインタビューした。山田監督には前作の『母 小林多喜二の母の物語』公開の時もインタビューしたが、今回ぜひにと思ったのは、映画を作ろうと思ったひとつのきっかけが、相模原障害者殺傷事件だったと聞いたからだ。山田監督は実は知的障害の娘さんを持ち、福祉や障害者の映画も何本も撮ってきた。今回、障害児の母親として植松聖死刑囚に一言言ってやりたい、そういう思いで映画を作ったのだという。 

 私は、植松死刑囚とは2017年以降、数えきれないくらい面会をし、今もやりとりを続けている。死刑が確定すると基本的に接見禁止で、死刑確定者は世間から隔絶されるのだが、そのシステムこそ死刑問題への社会的関心を遠ざけている元凶だ。そう思って埼玉連続幼女殺害事件の宮﨑勤元死刑囚(既に執行)とも執行直前まで手紙のやりとりをして、それを私が編集する月刊『創』に公開してきた(後に『夢のなか』『夢のなか、いまも』という書名で刊行)。植松死刑囚の手記も、この何年か、相当数掲載している。宮﨑元死刑囚の時は彼の母親に協力いただいたのだが(家族は死刑確定者とも接見が許可される)、植松死刑囚の場合も工夫は必要だった。

 話を『わたしのかあさん―天使の詩』に戻そう。私は2月のなかのZEROで行われた特別試写会を観たのだが、上映後舞台に上がった山田監督は「92歳です!」と紹介され、会場から拍手が湧いたように記憶している。映画には実際に知的障害のある人たちがたくさん出演しており、俳優たちにまじってその人たちも発言。壇上で和やかな空気を醸し出していた。

中野での特別試写会後の舞台トーク。前列中央が山田監督(筆者撮影)
中野での特別試写会後の舞台トーク。前列中央が山田監督(筆者撮影)

 この映画はキャストが豪華だ。前の作品で小林多喜二の母親を演じた寺島しのぶさんが主役だが、知的障害のある母親という異色の役柄だ。寺島さん自身、難しい役だったと語っている。

 映画は、母親が知的障害で娘が健常者という異例の設定だ。その娘が成長して障害者施設を運営することになるのだが、その成長後の女性を演じているのは常盤貴子さんだ。ほかにも高島礼子さんや船越英一郎さんらベテラン俳優がたくさん登場する。

 原作の『わたしの母さん』は、山田監督の長女が通った大塚養護学校の先生だった菊地澄子さんが書いた実話だ。娘さんは今も障害者施設にいるのだが、そこも映画のロケに使われている。

山田火砂子監督(筆者撮影)
山田火砂子監督(筆者撮影)

 山田監督がこの映画を作ろうと思ったきっかけが津久井やまゆり園で起きた障害者殺傷事件だったことは前述したが、その思いを詳しく聞きたいと思い、3月に山田監督の事務所「現代ぷろだくしょん」を訪ねた。

「現代ぷろだくしょん」の上映会では、山田監督と、映画のプロデューサーである二女の有さんが終了後舞台に立つのだが、いつも会場にカンパを呼びかける。良い映画を作り続けるにはお金がかかる、ぜひ応援してほしいと呼びかけるのだが、そのアットホームな雰囲気と、市民の支援で映画作りをという精神が、表現活動の原点を示しているようで好感が持てる。

 その山田監督が、障害児を持つ母親と映画監督という両方の思いで作り上げた映画『わたしのかあさん―天使の詩』についてのインタビューを以下、紹介しよう。初日の新宿での上映には監督自身も舞台挨拶に登壇する。

障害児の母親として植松聖に言ってやりたい

山田 私は障害のある子を持ったお母さんたちを対象に講演をする機会があって、津久井やまゆり園にも以前、講演に行ったことがあるんですね。障害のある子を持った親は自殺する人もいましたから、そうならないように、お母さんたちに話をするのです。

 あのやまゆり園で起きた事件の後、私は植松聖に会いに行って言ってやりたいと思いました。障害者というのは、あんただって私だってそうなっていたかもしれないんだよと。だからあんた、障害者を殺すというのなら、自分が殺される側になる可能性だってあるんだよ。どうするの、自分も死ぬんだよって。そんな話を植松にしたいなと思ったんです。そして、そういうのをテーマにして映画を作ろうと思ったんです。

 植松のように、会話ができない知的障害者、弱者をこの世からなくすなどと言い出したら、この社会がどうなってしまうのか。弱者とともに生きていかなきゃならないから平和でいられるんじゃないかと私は思うんですよ。それをなくしてしまおうというのは、昔の軍国主義に逆戻りですよ。

 だから植松にこれを言いたい、という映画を撮ろうと思ったんです。要するに私だって障害を持って生まれたかもしれない。私かもしれないし、あなたかもしれない。そう考えれば、障害者と、ともに手を携えて生きていこうねという気持ちになるんですよ。それを言いたかったのね。

 昨日も私の映画を観たお客さんが、しみじみと「人という字について考えさせられた」と泣きながら言ってきました。町田のホールでの試写会ですけど、お客さんがたくさん来てくれました。3月30日から東京では新宿のK's cinemaと立川シネマシティの2つの劇場にかけます。私はこの映画で、ぜひ俳優さんたちに賞をとってもらいたいと思っているんです。

障害当者たちと常盤貴子さん(『わたしのかあさん―天使の詩』c:現代ぷろだくしょん)
障害当者たちと常盤貴子さん(『わたしのかあさん―天使の詩』c:現代ぷろだくしょん)

帰ろうとすると娘がぽろぽろ涙を流して泣くんです

山田 今回の映画で常盤貴子さんが園長を務める愛清園という障害者施設の撮影に使わせていただいたのは、障害のある私の娘が実際にお世話になっている施設です。畑のシーンだけは滝乃川学園という別の施設で撮影しました。

 娘はもう60歳で、しかもてんかんの発作があるので大変なんです。追い出されずに預かっていただけているのはありがたいと思っています。

 昔は訪ねて行って、私が帰ると言うと、娘は涙をぽろぽろ流して泣きました。今はそれもなくなったわね。話もできない状態です。寝たきりではないですが、車椅子に乗ったままで、食事も流動食です。

 今回の映画では実際に障害のある人たちが出ていますが、最初は常盤貴子さんの提案だったのです。芝居は私が教えるからやってみてはどうかしらと言うのです。他の人は、それは無理だよ、ドキュメンタリーとして追いかけるならいいけど、役者となると1カ月や2カ月でできることではないと言うのです。

 でも、結局、オーディションをやって、出てもらうことになりました。オーディションで最終に残ったのが映画に出ている3人でした。ファッションモデルと歌手とラーメン屋ですね。

――母親役の寺島しのぶさんの演技も素晴らしいけれど、その子役の落井実結子さんの演技もすごいですよね。

山田 あの子もまたうまいんですよね。NHKの大河ドラマにも出てましたけれど、どうやって見つけてきたのかとよく聞かれるんです。プロデューサーの娘に聞くと、映画に出ている小倉蒼蛙だと言うし、助監督だと言う人もいるし、みんなが俺だ俺だと言うからわからない(笑)。ちょっと娘に聞いてみましょうか。

(ここでプロデューサーである上野有さんを呼び入れる)

上野 大事な役なのでオーディションを何回もやったのですが、なかなか決まらなくて、結局、小倉さんのマネージャーさんが知っている子がいるからと紹介してくれたのです。

――中野での特別試写の後の舞台挨拶の時に、監督は、障害者の映画は、海外の人は笑って観てくれるんだけど日本人は笑うべきシーンも深刻な顔をして観てしまうと話されていましたよね。

山田 家族に障害者のいる人、ましてやそれが自分の子どもだったりしたら、やはり映画を観て親御さんは泣くんじゃないんですか。「よくわかってるわね監督さん」なんて言いながら涙を流すんです。

 それと、一般の人が笑わないのは、笑っちゃ失礼だと思ったりするんでしょうね。日本人の特性ですよ。前に作った『筆子・その愛―天使のピアノ―』をアメリカで試写をやった時など、客席で腹を抱えて笑っていました。

実の娘のエピソードも映画で描いている

――今回の映画でも、近所のお母さんたちが寺島さん演じる障害のある母親に意地悪を言ったりするシーンがコミカルに描かれていましたね。

山田 実際はあんなものじゃないんですけどね。例えば電車にダウン症の子が乗っていると、ひどいことを言う若い子がいるでしょう。お化けだなんて言う女子学生がいたから、喧嘩になったこともありましたよ。待ちなさいよ、と言ったら、変なおばさんとか言って降りていってしまいましたがね。

 アメリカではバスの中で障害のある子が変なことを始めた時に、それを見た子どもが「お母さん、どうしてあの子はあんなことするの?」と訊いたりすると、母親が「そんな言い方をしてはいけません。イエス様に一番愛されてるのはあの子たちよ」と言ったりするんですね。そうして、子どもは納得するけど、日本ではそういう時に使う言葉がないですからね。

 今回の映画は、母親が知的障害で、子どもが健常児という家族の話で、そこも面白いと思いました。トマトを後ろからかじったりするエピソードは実際にうちの娘がやったことで、そういうこともシナリオに突っ込んでみたりしました。

 寺島しのぶさんも知的障害のある母親役というのは初めてのことで、「あなた以外でこの役ができる人はいないと思います」と私が書いた手紙に感動したから出たのですよ、とおっしゃっていましたね。

 寺島さんとご一緒するのは『母 小林多喜二の母の物語』に次いで2回目です。

 でも今回は難しい役だったと思いますね。私はいつも、カットをかけるのが早すぎると言われていたこともあって、なるべくカットをかけませんでした。知的障害のある母親という難しい役に入りこんでいるのにカットをかけたりすると、感情が途切れて、再び入れなおすのが大変だろうと思って、ぶっ通しでやろうと考えたのです。

――中野での特別試写会の時は、終わってから出演された方たちが大勢壇上に上がって和気あいあいと良い雰囲気でしたね。障害のある人たちもたくさん上がっていました。

山田 映画に出てる人たちですね。

――監督は紹介される時、92歳!と強調されていましたが、健康上の問題はないのですか?

山田 私、透析してますよ。今日もこれから行かなくちゃいけない。頑張ってやってるんです。

『わたしのかあさん―天使の詩』公式ホームページは下記

https://www.gendaipro.jp/mymom/

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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