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「三浦春馬さんの事件がモデルでは?」と言われて日本経済新聞の連載小説を読んでみたら驚いた

篠田博之月刊『創』編集長
日本経済新聞夕刊の連載小説(筆者撮影)

連載小説に春馬くんが出ていると春友さんから

「春友さんにお知らせしたくて投稿します」というハガキが月刊『創』(つくる)編集部に届いた。なかなか興味深いので紹介しよう。

《私の家では日本経済新聞をとっていますが、その日経新聞の夕刊に今連載中の小説に、春馬くんがモデルであろうと思われる人物が登場します。「俳優 藤見倫太郎」という名前で、倫太郎の家庭環境、人となりが春馬くんっぽいなと思っていたら、倫太郎が自宅で亡くなり、それをマネージャーが発見。もう確信しました。

 倫太郎は春馬くんだ。その後の倫太郎のファンの動きも描かれていて、それも春友さんたちの活動をモデルにしたとしか思えません。

 春馬くんは今、小説の中に入り込んだのです。本当に春馬くんはすごいです。いなくなっても新しい足跡を残せるのです。そしてそれは春馬くんの魅力に引き込まれた春友さんたちの活動もあったからこそだと思います。

 嬉しかったです、本当に。全く思ってもいなかったところで春馬くんに出会えて。春馬くんを小説に入れてくれた、作家の朝井リョウ氏に感謝します。》

読んでみたらリアルなので驚いた

 朝井リョウさんと言えば気鋭の直木賞作家だ。

 本当なんだろうか、と思って日経を読んでみた。私は仕事柄、日経は毎日購読しているのだが、連載小説は読んでいなかった。電子版だとまとめて読める。

 いやあ、読んで驚いた。まんまじゃないか。春友さんたちが表明してきた気持ちや雰囲気がそのまま描写されている。

 その朝井リョウさんの連載小説とは「イン・ザ・メガチャーチ」。

 例えば8月22日付の第117回にこんなくだりがある。

《確かに精神的な部分が理由で活動を休止していたけれど、最近は新たなドラマの準備をしていたこと。その現場では常に明るく振る舞っていたと、すでに削除されたスタッフのSNSに書かれていたこと。深夜にマネージャーが意識不明の状態の倫太郎を風呂場で見つけた、という最初の報道から文言が少しずつ変更されており、そもそも深夜にマネージャーが自宅を訪れていることも含め不自然な点が多いこと――そういう情報をあらゆるところから掻(か)き集め、精査し、拡散しやすいようまとめてくれたのだ。倫太郎がりんファミを置いて自らいなくなるはずがない、そもそも警察やメディアの発表にはこんなにも矛盾があるといういづみさんの発信には、当初、りんファミを中心に沢山(たくさん)の賛同が集まった。それからすぐ、自然発生的に、【#藤見倫太郎の真実を報道してください】というハッシュタグが生まれ、ツイッター上でのデモが活発化した。》

「真実を報道してください」というハッシュタグの話など、春友さんたちが読んだら皆が「ああ、これは…」と思うのではないだろうか。

「ねえ、春馬」というかんなおさんの呼びかけも?

 あるいは8月23日付の第118回のこんな一節。

《ねえ、倫太郎。

あなたも、この海原のどこかにいるよね。

 ねえ。

 皆どうして、あんなにも簡単に、受け入れましょうとか前を向きましょうとか、そういうことが言えるんだろうね。

 私は、倫太郎の人生そのものに魅了されていたの。》

 さらに26日付第121回のこんな一節、

《ねえ、倫太郎。

 私ね、倫太郎がいなくなってからのほうが、むしろ、倫太郎を身近に感じてるんだよ。

 不思議だよね。

 こうやって、倫太郎倫太郎、って、毎日呼びかけるようになったからかな。》

 これって、『創』にいつも投稿している北海道のかんなおさんの口調そのままではないか。春友さんたちが口にしていた思いそのままだ。いやあ朝井リョウさんは確実に、春友さんたちのことを調べたうえで書いている気がする。

グリーフケアについての言及も

 まだ春友さんたちの間でそんなに話題になっていないように見えるのは、日経の読者層と春友さんたちがあまり重なっていないためだろうか。でも知られるようになったら、この小説、春友さんたちの間で話題になるのは確実のような気がする。小説の中でグリーフケアについての言及もある。

 考えてみれば、2020年のあの一件以降の春馬さんをめぐる春友さんたちの思いやその経緯を私は、ひとつの社会現象だと言ってきたが、コロナ禍を経て、日本社会に起きたこの現象は、メディアや表現に関わる者がもっと受け止めるべきものと思う。その意味で、これまでも独特の作品を描いてきた朝井リョウさんが着目したのは興味深い。

 私は昨日受けとった春友さんのハガキで知って最近の連載部分を読んだだけだが、誰か全編読んで解説なり感想を表明してもらえないだろうか。春友さんたちがこの3年、どんなふうに思いを語ってきて、どう変化してきたかは、既にPart4まで刊行されている『三浦春馬 死を超えて生きる人』を通して読むとよくわかる。

「3年経っても何も解決されていません」

 さて、考えてみればヤフーニュースに春友さんたちの情報を紹介するのは久しぶりで、思えば今年の春馬さんの命日7月18日の報告もしていなかったな、ということで、ここで上でも触れた北海道在住のかんなおさんの投稿と、堀内圭三さんの「ほっこりカフェ」ファミリーの『太陽の子』ロケ地めぐりをした報告を公開しておこう。

 まず、かんなおさんの投稿だ。後半の「さて…ここからは許してね…私の独り言です」での言及など、他の春友さんはどう受け止めるだろうか。

《3回目の7月18日を迎えた。時間とは生きること…。私はあれから1095日、26280時間、1576800分、946080000秒の時と生を刻んだ。

 あの日、貴方が新たな翼を携え旅立った空を今日は少しだけ特別な想いで見上げる。

 流れた時間の中で、果てしなく雄大に続くこの空は、いったい何を受け止めたのだろうか。

 私たちの想いも包み込み、きっと…貴方をも優しく癒し続けているのだろう。

〈三浦春馬様〉

 貴方に逢えなくなって、早や3年が経ちます。貴方らしく穏やかに過ごしていますか。今年も七夕に『天外者』が上映されましたよ。

 心友の江幡ツインズお二人も御結婚されましたね。涙いっぱいで大喜びしている貴方が浮かびます。とりわけ塁さんの大病を克服しパパとなった姿には心底、安堵しているのではないでしょうか。

 さて…ここからは許してね…私の独り言です。

 私には、強い違和感を覚えた貴方の“ある仕草”があります。それは亡くなる数年前から目立ち始め、謙虚で、品行方正で礼儀正しく、人一倍気遣いの貴方には相応しくない、受け取り側によっては失礼で不快だと誤解されかねない仕草、“人前で腕組みしながら話す姿”です。

 ただそれは決して、周囲を威圧する類いのものではなく、むしろ他の誰かに“内なる三浦春馬”に踏み込まれるのを恐れ、警戒し、自身を守るための結界を張るかのような…自分自身をホールドする自己防衛動作に私には見えました。

 長きにわたり疲弊した貴方の心身は、既に極限状態にあったのでしょう。作り破顔の裏に、過度のストレスによる手指の振戦をひた隠し(それが腕組みの原因?)、とうに限界を超えていた壊れた心で…よくあれだけの周囲の期待に応えてくれました。

 世界一いや、宇宙一頑張った貴方を誇りに思います。貴方が何も語らずとも、命を賭して突き付けた衝動は、隠すのが美徳とされたメンタルヘルス意識を変え、公表し休養する方も増えました。誰にも頼れなかった貴方の孤独が今、他の誰かを救っていますよ。

 そして私はと言うと…この日を普段通りに過ごしています。特別なことは、もう何も必要ありません。貴方を失い、魅せられ、彷徨い、探し続け…何もできなかった、守れなかったと自分を責め続け、一生分の冷たい涙を流した長い日々。

 ほんとね…後悔を数えたらキリがないです…でもそれを上回るたくさんの感謝と感動と笑顔、奇跡の楽曲の誕生にも立ち合え、春友さんとの御縁を頂けたのも事実です。

 そして今は…この淋しさや虚しさ…哀しみや苦しみの感情さえも、他の誰かの辛さに共鳴し寄り添う“温かなモノ”へと昇華することを知りました。そう…今は、貴方を思うと温かな涙が伝います。

 春馬くん…私ね、やっと分かったよ。

 アフターファンの私はこの3年で何ひとつ、奪われてはいないし、失ってもいなかった。

 むしろ、この経過した1095日の瞬間、全てが貴方からの贈り物だった。それは今も天から柔らかに降り注ぎ、私の人生を彩ってくれているのを感じています。

 だからもうこれは…感謝しかないね…。

 本当に心からご苦労様…ありがとう、です。

 貴方に出会えた私は幸せ者です。どうかどうか貴方も自由に、なりたい自分で穏やかにいてね。貴方がどこにいようとも、どんな時も貴方の幸せを願っています。

7/18は貴方というギフトを授かった日。これからも貴方と共に?

 2023/7/18 あるアフターファンより

追伸:ryuchellさんが虹の橋を渡りました。ただただ、抱きしめてあげて欲しいです。》(北海道 かんなお)

「ほっこり」ファミリーの『太陽の子』ロケ地巡り

 あれから3回目の7月18日に「ほっこりファミリー」の皆さんが行った「『太陽の子』ロケ地巡り」。京都在住ノコノコさんの報告と堀内さんが送ってくれた写真を最後に紹介する。

 《7月18日をどう過ごしたか、報告させてもらいます。この日は春馬さんの『太陽の子』のロケ地、京都金戒光明寺と谷川住宅群をほっこりカフェの堀内さんの企画により行かせてもらいました。

 ひまわりの花束を持って行くと金戒光明寺の御朱印でひまわりの限定があったので、このリンクに喜びを感じました。金戒光明寺の後は谷川住宅群の前で春友さんの皆様と集合写真を撮ってもらい、堀内さんが用意された春馬さんのお写真と並んで『日本製』で春馬さんが紹介されていた和蝋燭に火を灯し、築地本願寺や西本願寺で使われているお香をたいて手を合わせることができました。

 春馬さんがいなくなって3年が経ちましたが、素敵な出会いや交流ができたことをこれからも続けていきたいです。》(京都 ノコノコ)

京都金戒光明寺を訪れた「ほっこりファミリー」(堀内さん提供)
京都金戒光明寺を訪れた「ほっこりファミリー」(堀内さん提供)

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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