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『東京卍リベンジャーズ』『ブルーロック』など講談社マンガのヒットとライツビジネス

篠田博之月刊『創』編集長
『東京卍リベンジャーズ』と『ブルーロック』(筆者撮影)

 年々伸びる電子書籍、配信拡大といった追い風を受けて、講談社、集英社、小学館など大手3社のマンガのコンテンツが相変わらず強い。アニメコンテンツの海外配信が加速したことでこの2~3年、市場も大きく拡大しているのだが、そのマンガ市場について、講談社のケースを紹介しよう。

サッカーW杯人気で『ブルーロック』が大ヒット

 講談社の場合、2021年にアニメと実写映画が大ヒットした『東京卍リベンジャーズ』のコミックスが驚異的な売れ行きを見せたのだが、22年になってもその影響は残っていたという。

 コミックを含めた講談社の販売全体を統括する菅間徹販売局長がこう語る。

「『東京卍リベンジャーズ』は既に22年11月に『週刊少年マガジン』での連載が終了し、23年1月に第31巻が出るのですが、コミックスのこの1年間の部数が1110万部と大変よく売れました。デジタルでも『東京卍リベンジャーズ』は640万部(換算)と、この1年間で一番ヒットした作品です」

 それに代わるとまではいかないが、2022年にヒットしたのはサッカーマンガ『ブルーロック』だった。『週刊少年マガジン』で連載中の人気作品だ。

「『ブルーロック』はちょうど10月からテレビ朝日系でアニメが放送されており、1月から第2クールに入ります。アニメのクオリティが高いことに加えて、11月以降、サッカーワールドカップの影響でコミックスがぐっと伸びました。現在21巻まで出ていますが、この1年間でコミックスが440万部以上売れ、累計部数が1500万部を突破しています。その3分の1近くがこの1年間で売れたということです。

 ワールドカップ人気で12月に入ってからは110万部を超える重版がかかり、1日に52万部も出荷した日もありました。流通倉庫がパンクする事態になり、『東京卍リベンジャーズ』が一番売れた頃と同じ状況でした」(菅間販売局長)

劇場アニメ公開もあって『転スラ』がさらにヒット

 講談社コミックスの売り上げ第3位は『転生したらスライムだった件』だ。ずっとベストセラーを続けており、22年11月から映画『劇場版 転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編』が公開されて拍車がかかった。テレビアニメは日本テレビが9月から11月まで放送したが、同局はその前に4月から過去の再放送を流すなど大きな取り組みを行った。

「『転生したらスライムだった件』のコミックスはこの4年間、ずっと売れ続けているのですが、この1年間だけで214万部、デジタルも210万部(換算)のヒットでした。12月に出た最新刊の第22巻は初版48万部です」(同)

 この1年間をとると、このビッグ3が圧倒的な売れ行きなのだが、それに続く作品も挙げていただいた。

「第4位はマガジンポケットで配信中の『可愛いだけじゃない式守さん』で、年間102万部刊行しています。4月からテレビ朝日系でアニメも放送されました。

 第5位は『カッコウの許嫁』で年間92万部。第15巻まで出ています。第6位は『WIND BREAKER』の90万部で、この作品は1月に最新巻の第10巻が刊行されます。

 以上はマガジンKCで、『転生したらスライムだった件』は『月刊シリウス』連載作品で判型はB6判です。

 7位の『ちいかわ』はモーニングKCです。もともと『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ』としてツイッターで連載されていたキャラクターで、すごい人気です。4月からフジテレビでアニメ化もされ、コミックスは16巻出ていますが、この1年で90万部を刊行しました。

 8位は『五等分の花嫁』、9位が『彼女、お借りします』、いずれもマガジンKCで、10位が『ヤングマガジン』連載の『ザ・ファブル The second contact』です。10作品のうち7作品がマガジンKCですね」(同)

デジタルコミックのベスト5は…

 デジタルコミックのこの1年間のベスト5も聞いた。

「1位が『東京卍リベンジャーズ』ですが、2位は『ザ・ファブル』。連載中のものでなく前の作品です。3位が『転生したらスライムだった件』で、4位が『ブルーロック』、そして5位はドラマが話題になった『ハコヅメ』でした。

 また、デジタルコミック関連で言うと、自社アプリであるマガジンポケットが非常に伸びています。紙とデジタルの関係でいうと、紙は少しずつ落ちていますが、既にその分をデジタルが凌駕しており、紙とデジタルの差はますます開いています」(同)

海外市場が一気に拡大 ライツビジネスの現状は

 大手出版社のライツビジネスが拡大している中で、講談社のライツ部門はこのところ売り上げも陣容も大きくなり、認知度が高まっている。ライツ・メディアビジネス局は売り上げが対前年127%だという。同局の古川慎アニメ・ゲーム事業部部長に話を聞いた。

 ライツ・メディアビジネス局のライツ部門でメディア化展開を手掛ける主な部署は、国内外のアニメ映像化、ゲーム企画開発などを行う「アニメ・ゲーム事業部」、国内実写映像化、舞台化、イベント化を行う「ライツ事業部」、海外実写映画化、翻訳出版を行う「国際ライツ事業部」、商品化(マーチャンダイジング)を行う「ライツMD部」、池袋にあるイベントスペース「ミクサライブ」などを手掛ける「事業開発部」に分かれている。

 その中でアニメ・ゲーム事業部は社員約25人を含む約50人のスタッフを擁する部署だ。現在は、年間30~40本の新作アニメとそれにひもづくゲーム化に関わり、アニメ制作に伴う資金調達、制作会社や放送局の選定、海外パートナーへのライセンス業務を行っている。マンガ原作のアニメ化については、オファーが来るのを待って許諾を検討するのでなく、むしろ積極的に営業をかけていくのが当たり前になっているという。

『東京卍リベンジャーズ』の知られざる秘話

 前述したように2021年に『東京卍リベンジャーズ』がアニメ化・映画化をひとつのきっかけにして大ヒットしたのだが、『週刊少年マガジン』での連載開始は2017年。その頃から営業をかけていったのだという。

「初期はヤンキーマンガというイメージが強く、特にアニメはとんとん拍子に映像化が決まった訳ではありません。例えばコミックスのカバーは最初、黒バックに赤字のデザインでしたが、宣伝部・販売部が主導して第4巻くらいで白バックに変えて青春タイムリープものという打ち出しにしたり、各部署の営業努力が結実してアニメ化に至りました。アニメ化が決まったのは2018年だったと思います」

 大ヒットした今から振り返ると引く手あまただったように思えてしまうが、初期段階では苦労もあったらしい。枠組みが決まってからも大ヒットに至るまで3年を費やしているわけだ。アニメと実写の製作委員会も別で、2021年にアニメが2クール放送され、実写映画と相乗効果で大ヒットしたのも、計算した訳ではなく、運よくタイミングが合って結果的にそうなったのだという。

「『東京卍リベンジャーズ』のヒットには、商品化展開も大きく寄与しました。実写とアニメに加えて、タイアップやキャラクター商品展開でユーザーにダイレクトに訴求できたことがここまでのヒットを作りだしたと確信しています。大ヒットのためには、今は映像化展開と商品化展開がより不可欠になっているので、それを仕掛けるには部署を横断していろいろ考えなければならない時代になっていると思います」

海外配信でさらに市場拡大

「『ブルーロック』はちょうど2022年のサッカーワールドカップに向けてアニメ化を決められたので、例えば対ドイツ戦でゲームのCMを流したのですが、大きな話題になって原作の売れ行きにも跳ね返りました。ゲームは、アニメと同様に原作の価値を世界に向けて最大化する手法の一つで、今後も力を入れていきたいと考えています」(古川部長)

 アニメの海外配信が増えて市場が大きく拡大したが、海外の配信会社との交渉も大事な仕事になっているという。

「アニメの海外配信は日本の放送直後に世界中で配信されるので翻訳などいろいろな準備が必要なのですが、ほぼ同時に世界中で見られることは大ヒットのためにも大事なことだし、海賊版対策としても有効です」(同)

 大ヒットした『進撃の巨人』は連載が終了したが、アニメの配信は今も世界中で視聴されているという。2023年にはNHKのアニメ放送が「ファイナルシーズン完結編」を迎えることもあり、まだまだ人気は続きそうだ。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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