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闘病記が反響を呼んだ集団レイプ事件被害女性に久々に会い、20年間の経緯を聞いて感じたこと

篠田博之月刊『創』編集長
被害女性の闘病日記(筆者撮影)

 集団レイプ事件被害女性A子さんと久々に会って話をした。事件があったのは約20年前だが、その後現在に至るまで精神的後遺症に悩まされている。彼女と最初に会って話を聞いたのは事件直後だったが、その12年後の2011年に彼女の闘病記を『創』に載せた。もう8年前だ。その後、電話で話す機会はあったが、直接会うのは久しぶりだ。

 彼女の事件の経緯と闘病記については2018年11月号にも再録し、今回、この記事を書くために参考資料としてヤフーニュース雑誌にそれをあげた。事件から12年後に、突然彼女が訪ねてきてその深刻な病状に驚き、状況を打開するために、彼女のトラウマの原因となった犯行グループのメンバーに私が接触をはかったという話だ。多くの考えさせられる要素を含んだ記事で、大きな反響を呼んだ内容だ。詳細が知りたい人は下記へアクセスしてほしい。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191227-00010002-tsukuru-soci

大きな反響を呼んだ集団レイプ被害女性闘病記

20年たっても後遺症に悩まされる現実

 今回会って話を聞いたA子さんは集団レイプを受けた当時、まだ19歳だった。当時、この事件は大きな社会問題になったが、被害女性に直接会って話を聞いたのは『創』だけだ。

 そして2011年にこの件を改めて報じたのは、被害者の彼女が事件から12年経っても後遺症に苦しみ、生死をさまようような状態に置かれていたからだ。性暴力がどんなに悲惨なものであるかを、それはよく示していた。

 彼女は当時、精神科医に通院と入院を繰り返し、闘病日記にもこんなふうに書いていた。

《●9月×日

 今日は家族の誕生日。頑張って起きて最高の誕生日に!!と思っていたもののダメ……。イライラ、フラフラ、暴言、自傷(トイレにこもって壁(石)に左肘を何十回以上も打ちつける)。おもいっきり打っても痛くない。痛くないと意味がない。ヒビが入るんじゃないかって位、強打した時、痛いハズなのに何故か嬉しかった。

●9月×日

 母親らしい事、何も出来ておらず……。下の子が金魚を見て、すっごく喜んだ時、「いつか早く水族館に」って母に介助してもらいながら水族館へ。子供は大喜び。良かった。水族館自体、私とーっても大好きだったはずなのに、何の気持ち、嬉しさ、楽しさが……何の感覚もない。

 ただどこかの空間、人の中にポツンと……。大好きな場所さえ興味なくなっちゃったの……? 魚達を見てるの好きなのに。何で? 何の感覚も出ないって……。でも、そんな自分にはこうやって書いてみて、はじめて気付く。》

  

 8年前に会った時には、彼女はリストカットを繰り返して手首には包帯を巻いていたし、外出する元気もないような状態だった。

 そして今回、編集部の最寄り駅から電話してきたA子さんの声が、前回より元気だったことにホッとした。彼女は以前よりだいぶ回復しており、見た目は全く普通だった。

 そして、今は家族と幸せに暮らしていることを話してくれた。ずっと心配していたから、それは何よりもうれしいことだった。ただ、まだ一人で自由に歩き回ることはできない状態で、その日も、久々に一人で電車に乗ったと話していた。

 

被害女性が声をあげるようになった

 この1~2年、#Me Too運動に象徴される女性の人権獲得をめざす動きが世界中に広がった。先頃判決の出た伊藤詩織さんの取り組みやそれに対する支援の声の拡大など、日本でも様々な動きが続いた。

 その過程で多くの女性が、それまで誰にも言えなかった性暴力被害について勇気をもって告発するようになった。『創』も2018年11月号に、上記A子さんと別の女性の手記を掲載し、2019年8月号にもさらに別の女性の手記を掲載した。特にその8月号の女性は、実名を出してこれを世に問いたいと言ってきた。彼女は学生時代からジャーナリスト志望で『創』も愛読していたという。そしてその被害体験とは、取材相手から性暴力を受けたという深刻な事柄だった。

 この2人の女性の手記もさきほどヤフーニュース雑誌に公開した。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191230-00010001-tsukuru-soci

私の性暴力被害体験 その回復と葛藤(2018年11月号)

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191230-00010000-tsukuru-soci

生き延びた私に、新しい社会を見せて下さい(2019年8月号)

 ジャーナリズムの世界でも性暴力やセクハラの被害は少なくない。しかも、その多くが取材対象からのものだ。特に警察関係者など、夜回り取材といって女性記者も夜中に一人で話を聞きに行く機会が多い。なかには情報を教えるからといって、とんでもない行為に及ぶ取材相手もいるのが実情だ。この1~2年、多くの女性が声を上げる中で、ジャーナリズムの世界でもそれまで思っていた以上にセクハラや性暴力の被害が多いことに驚いた人も少なくないと思う。

 ちなみに2018年11月号に手記を寄せてくれた女性は、もともとA子さんの手記を読んで、治療方法などについて編集部に問い合わせてきた人だ。A子さんの手記には何人もの女性から問い合わせがあったのだが(その多くは被害体験のある女性だった)、当時はA子さん自身がそういう声に応えるだけの余裕が全くない状態だった。

 そして今回、A子さんと話して、近々、他の被害女性とも会って話してみようということになった。もし可能であればその話も『創』に掲載したいと思う。

   

性犯罪をなくすためには加害者への対策も

 で、これは今回、この記事をヤフーニュースに書こうと思いいたった理由なのだが、つくづく思うのはA子さんが被害にあった約20年前と現在の、時代状況の変化だ。A子さんの場合は、被害体験を自分や家族だけで背負い込み、苦しい思いを長い間強いられてきた。

 今回、彼女が編集部を訪ねてきたのも、何らかの形で自分の体験を役立てることができたらという前向きの気持ちからなのだが、そんなふうに考えて2011年に編集部を訪ねてきたのも事件から12年もたった後だった。

 私が最初に彼女に会った時は、まだ被害事件の衝撃のただなかで、彼女の母親が同席しながら話を聞いたのだが、途中で精神的に耐えられずに過呼吸になってしまったことをよく覚えている。事件自体もあまりに衝撃的だった。

 『創』は一方で性暴力の加害者の手記も何度か掲載している。性犯罪をなくすためには処罰だけでなく加害者のカウンセリングを始め治療が必要だという動きが広がりつつあるからだ。

 ヤフーニュース個人にも2019年1月にこの記事を書いている。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190131-00113156/

性犯罪で13年間服役し出所した男性の更生レポートその1

 上記の更生レポートは「その1」となっているが、彼のその後の手記も近々『創』に掲載する予定だ。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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