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「あいちトリエンナーレ」問題でアーティストらが立ち上がった意味は大きい

篠田博之月刊『創』編集長
9月10日外国特派員協会での会見(筆者撮影)

 9月10日11時から外国特派員協会で「あいちトリエンナーレ2019」出展作家らが会見を行い、「RE Freedom AICHI」というプロジェクトを立ち上げたことを発表した。実は8日に東大で美術関係者らを中心にタウンホールミーティングというのが開催され、私も参加したのだが、そこに出展作家らも何人か来ていて、作家らがプロジェクトを立ち上げるという話は聞いていた。しかし、本日10日、実際に会見で正式な説明を聞いてみると、予想を超える取り組みで、いやあ素晴らしい。拍手ものだ。

 「表現の不自由展・その後」中止事件をめぐってはいろいろな動きが出てはいるのだが、全体としてはやや膠着状態だった。それがアーティストらが立ち上がったことで、一気に新たなステージに至ったといえる。その8日のミーティングで私も発言し、この問題は「あいちトリエンナーレ2019」の出展作家らが今の何倍もの人数で立ち上がって声をあげれば再開できると思う、と話したのだが、その可能性がこんなに一気に現実になるとは思わなかった。

 会見でも言われたが、これまで芸術祭などで出展が中止になったケースで再開が実現できたケースは一例もないのだそうだ。その歴史的な試みに作家らが今回立ち上がったということで、日本の芸術や表現に関わる世界でこの動きは特筆すべきものといえる。今回の中止事件をめぐっては、美術関係者から、日本の美術界はこういう問題に敏感に反応するという体制ができていないという声を何度も聞かされて、そうなのかと思っていたが、今回のプロジェクト立ち上げは、そうした懸念を払拭した。文芸や映画など他の表現の領域でも、これまでできなかった取り組みだと思う。

会見するアーティストたち(筆者撮影)
会見するアーティストたち(筆者撮影)

 今はまだ自分たちの思いを発表しただけで、津田大介芸術監督や愛知県との折衝はこれからだから、トントン拍子に行くとは限らないが、彼ら自身もアーティストだけでできるとは思っておらず、オーディエンスと一緒にやっていきたいと語っている。これまでこの再開を求めて動いてきた市民運動を始めとした人たちが、これを機会にひとつにまとまることが大事だと思う。

 本日会見で登壇したのは、卯城竜太、大橋藍、小泉明郎、高山明、ホンマエリさん。そのほか会場からも加藤翼さんや村山悟郎さんらが発言した。独立性を担保するためにいろいろな費用は全てクラウドファンディングで集めることや、ホームページの立ち上げのほかにSNSで#YOurFreedom のハッシュタグを使って投稿を募ること、9月14日13時から、既に開設している名古屋のサナトリウム(8月に開設されたアーティスト・ラン・スペース)で討論を行うこと、今後は9月22日、24日、30日とゲストスピーカーを招いてフォーラムやワークショップを行うことなど、様々な取り組みを発表した。

 中には、理念は良いけど実施は大丈夫なのかという企画もあった。例えば「公共とは何なのか」考える取り組みとして、ワークショップのほかにコールセンターを設けてアーティストが実際に電話対応をやってみるという企画を発表したが、聞いていて、それはたぶんネトウヨの攻撃にさらされるだけではないかと思わざるをえなかった。でも今回の中止事件では、まさに芸術と公共性も問われたわけだから、それについて考えたり議論することは大切だ。ネトウヨとの応酬といった消耗戦にならないように方法は考えてほしいと思うが。

 現時点でこのプロジェクトに賛同しているアーティスト一覧も会見で配布されたが、総勢34人。個人的な人脈で仲間を募っているようで、この間、『創』にも登場した大浦信行さんや安世鴻さんらも関わっていない。今回の発表を機に、賛同アーティストも一気に増えると思う。プロジェクトのHPは下記だ。会見で配布された資料なども公開されている。

https://www.refreedomaichi.net/

 クラウドファンディングの目標は1000万円という。今の関心の高さを考えれば1000万円は決して夢ではないだろう。アクセス先は下記だ。

https://camp-fire.jp/projects/view/195875

 もう「あいちトリエンナーレ2019」の閉幕まで約1カ月だ。今回のアーティストらの取り組みは大変貴重なものなので、ぜひ多くの人が力を結集してほしいと思う。

 なお「表現の不自由展・その後」中止事件に関しては発売中の『創』10月号が総特集を組んでいる。多くの出展作家や実行委員なども登場しており、この問題について現時点では一番まとまっている特集だ。ぜひご覧いただきたい。詳細は下記を参照してほしい。

https://www.tsukuru.co.jp/gekkan/2019/09/201910.html

なおこの問題についてはこれまで幾つも記事を書いてきた。下記にまとめたのでご覧いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190804-00136942/

「表現の不自由展・その後」中止事件で問われたことは何なのか(8月4日)

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190808-00137629/

「表現の不自由展・その後」中止事件と「天皇の写真を燃やした」という誤解(8月8日)

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190814-00138304/

「表現の不自由展・その後」中止めぐる「週刊新潮」「産経」の報道と緊急局面(8月14日)

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190816-00138640/

「表現の不自由展・その後」で「天皇を燃やした」と攻撃されている大浦信行さんに話を聞いた(8月16日)

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190824-00139607/

「表現の不自由展・その後」中止事件の作家たちが自ら声をあげた意味は大きい(8月24日)

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190905-00141412/

津田大介さんが会見で語った「表現の不自由展・その後」の「再開の条件」とは(9月5日)

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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