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和歌山カレー事件・林眞須美死刑囚は今回も真紅の勝負服を着るのだろうか

篠田博之月刊『創』編集長
help meと書かれた林眞須美死刑囚からの手紙

和歌山カレー事件・林眞須美死刑囚の再審請求に対して2017年3月29日に裁判所が判断を示すとのことで、最近、関西のテレビ局などから幾つか問い合わせが入っている。先日も関西テレビがわざわざ上京して、私のもとへ届いている眞須美さんの手紙を撮影していった。29日前後に、特に事件現場となった関西では報道がなされるようなので、死刑確定後の彼女の訴えや、再審請求の論点などを簡単に紹介しておきたい。

この事件については経過などについてまとまった本がないため、2014年7月に創出版から『和歌山カレー事件 獄中からの手紙』(林眞須美・他著)という本を出版している。眞須美さんから届いたたくさんの手紙を整理し、それをベースに事件の経過や問題点を整理したものだ。

私は和歌山カレー事件の起きた1998年夏から林夫妻と取材を通じて知り合い、もう19年もの長いつきあいを続けている。眞須美さんは、高裁判決や最高裁判決の日には勝負服として赤い衣類を着ることにしてきたのだが、そうした衣類を頼まれて私が差し入れていた。2005年の高裁判決の時は、真っ赤な無地のワンピースをと頼まれたのだが、その条件にあうものが意外と売っておらず、都内のデパートをあれこれ探したものだ。今回3月29日にも眞須美さんは赤い勝負服を着るのだろうか。

死刑確定後は基本的に会えていないのだが、今も時々手紙が届く。通常、死刑確定者は家族と弁護人以外、手紙のやりとりは困難なのだが、なぜ手紙が届くかについては、以前、ヤフーニュース個人に書いたので参照してほしい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20160430-00057238/

和歌山カレー事件・林眞須美死刑囚から最近届いた手紙の中身

画像

ここに掲げたのは何カ月か前に彼女から届いたハガキだ。

またこの記事の冒頭に掲げた写真は、まだ彼女の死刑が確定する前に届いた封書の封筒だが、彼女はよくhelp me!と封筒に書き、自分を鼓舞するためにスマイルマークを書いていた。もう20年近くも冤罪を訴えていることになる。

眞須美さんが死刑確定後どんな生活をし、彼女や弁護団がどういう主張をしているかについては、さきほど記事を3本ほどヤフーニュース雑誌に公開した。というのは、もう事件から20年近くたっており、正確な経過などを覚えていない人が多いからだ。公表にあたっては、初出は『創』なのでその月号を明示したが、書籍化にあたって加筆修正をしたので前述した書籍の原稿を使った。

そしてここでは、その中の「死刑確定後も無実への思いは変わらない」という眞須美さんの手記の一部を紹介することにした。そもそも死刑確定者がどんな状況に置かれどういう生活を送っているかということ自体、あまり知られていない。外部との手紙のやりとりなどの接見交通権が大幅に制限されるためだ。私は連続幼女殺害事件の宮崎勤死刑囚(既に執行)とも12年間にわたって手紙のやりとりや面会を行い、彼の著書を2冊出版しているが、そういう手記や記録を残そうと思うのは、ひとつには死刑囚の置かれた状況について少しでも多くの人に知ってほしいと思うからだ。

さてさっそく眞須美さん自身が、死刑確定者としての生活や思いについて書いた手記の主要部分を引用しよう。

死刑確定後も無実への思いは変わらない 林眞須美

2009年5月19日に私の死刑が確定しました。4月21日に最高裁判決が出され、4月30日に判決訂正申立書を提出、5月18日付で判決訂正申立書の棄却決定がなされ、5月19日午後3時過ぎに交付されたのでした。

6月3日午後3時過ぎ、大阪拘置所5舎2階面接室にて処遇部長より、「大阪高等検察庁より死刑確定者として処遇するように連絡がありましたので、本日より死刑確定者として処遇します」と告知を受けました。そして立会っていた女区長さんが、その後「すぐに面接します」とのことでした。

面接室は、狭い3畳もない独居室と同じ広さの室でした。男子の部長さんの立会で面接となったのですが、私は金線二本線の大柄な処遇部長さんから「本日より死刑確定者として、処遇します」と告知されたのを、「本日、死刑確定者として、執行します」と聞いてしまい、「あっ、私は今日、ここで刑執行され殺されるのだ」と思いこみ、腰が抜けてしまいました。椅子に座りこみ、もう死人同然にへたりこんでしまったのです。

女区長さんが、「気をしっかり持って」などと、私を力づけるためにいろいろと言って下さったように思いますが、処刑の宣告を受けたと思い込んだ私は、生きている心地も現実感もなくなっていました。今思い返しても何も覚えておらず、廃人状態でした。

当時精神科が処方した薬を多量に常習していたこともあって、精神的にフラフラな状態でした。判決直後から、「死刑執行だ」と言われて、室から連行されていく場面が、四六時中ずっと脳裏をよぎってきて、連日、泣いてばかりでした。

こうして、私は2009年6月3日に死刑確定者処遇となったのです。抗議の意思表示のために、『創』の篠田博之編集長に差し入れてもらった真紅のトレーナー上下に、真紅のソックス、真紅のシャツでトレーナーズボンのポケットには真紅のハンカチが入れてありました。(略)

死刑確定後も365日の動作時限は未決時と全く同じです。

7:30起床 7:40点検 8:00朝食12:00昼食 16:30夕食 16:50点検 17:30就床 21:00就寝です。

平日のラジオ聴取は、11:30~14:00、17:00~21:00で、土・日・祝日等、休庁日は、9:54~21:00(夕点検時の16:10~16:40は、ラジオ止まる)です。

運動は、夏期3カ月は、火・木の週2回、冬期は、月・水・木の週3回の30分、入浴は、夏期3カ月は、月・水・金の週3回、冬期は、火・金の週2回です。

死刑確定者処遇になり、未決時の入浴15分が20分になりました。毎日9:30~12:00、読売新聞前日の夕刊と当日の朝刊が閲覧できます。官本貸与は1カ月に2回3冊はなく、未決時と同様に、特別官本貸与1カ月に2回2冊までとなり、友渕文庫といって、未決時の官本貸与の10~20年以上の古い本ではなく、10年未満の本を、1週間に3冊貸与してくれます。(略)

拘置所の死刑確定者処遇といっても「所長裁量」といって、拘置所長の判断で決まるようです。新法(刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律)後も統一されておらず、全く不平等だと思います。

親族外の友人、知人、支援者の方々が何度も外部交通申請をしては、「外部交通を必要とする事情が見当たらない、不許可」とされ続けています。新法施行により、東京拘置所の50人以上もいる死刑確定者は、5人申告をして3人許可とされており、2009年10月には、5人許可とすると聞きました。ところが大阪拘置所では、新法も何も関係ない、旧監獄法のままという状態です。所長裁量に全てがゆだねられているようで、実質的に旧監獄法のままです。大阪拘置所は、もともと古い体質の上に、以前職員と暴力団との汚職事件があり、職員の前代未聞の大量処分もあり、それらが影響しているようです。(略)

眞須美死刑囚の自筆の手紙
眞須美死刑囚の自筆の手紙

私自身は、死刑確定者とはいっても、無実を訴え続けております。

今を生きている自分という一人の人間の監獄における人権を尊重するよう「権利のための闘争」を闘います。私は、毎日一番身近に、刑務官の方々と顔をつき合わせてすごしています。しかし、いつこの女区長と主任達に刑場に連行されて、首になわをかけられて殺されるかもしれないと思いますと、何ともやりきれなくなり、反抗心がわいてしまう日々です。

死刑執行書のたった5行に、法務大臣が署名したら、5日後には、この大阪拘置所で、私は殺されるのだなという思いが、2009年6月3日の死刑確定者処遇日より四六時中つきまとい、一年365日、いつ死が訪れるかわからないという、不安感と恐怖感がつきまとう日々を過ごしています。(略)

「死刑」とするには、100%間違いがない、100%確実だとする判決文が書けない限り無罪とすべきことは明白です。和歌山カレー事件裁判がもし裁判員裁判だったとしたら、もしあなたが裁判員になったとしたら、私に「死刑」を宣告しますか? 私は犯人ではないし、国に殺される理由は何もありません。何の証拠もないのに無罪を主張する人間を死刑にしてよいのでしょうか。日本国民一人一人の方々に、裁判に目を向けて、助けてください、と訴えます。

以上、彼女の手記のほんの一部だ。全文を読みたい人は下記のヤフーニュース雑誌にアクセスしてほしい。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170325-00010000-tsukuru-soci&p=4

死刑確定後も無実への思いは変わらない 林眞須美

また今回の再審請求の大きな争点といえるヒ素鑑定については、下記の記事にわかりやすくまとめてある。これも参照してほしい。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170325-00010001-tsukuru-pol

死刑判決支えたヒ素鑑定に大きな疑問(1)

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170325-00010002-tsukuru-soci

死刑判決支えたヒ素鑑定に大きな疑問(2)

そして2つの記事を含めた眞須美さんや夫の健治さんの手記、弁護団の主張などについて関心のある人はぜひ前述した『和歌山カレー事件 獄中からの手紙』の全文を読んでいただきたい。20年近くに及ぶ眞須美さんをめぐる事件や裁判の経緯がわかるはずだ。

3月29日に裁判所の公正な決定が出ること、マスコミが正確な報道を行ってくれることを期待したい。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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