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黒子のバスケ脅迫犯を警察はどこまで追いつめているか

篠田博之月刊『創』編集長

「黒子のバスケ」脅迫犯は『創』の愛読者のようでもあり、警視庁の捜査でどこまで追いつめられているか気になるのだが、この間、断片的に報道されている情報をつなぎあわせると、捜査の網はそれなりに絞り込まれつつあるように思う。怪人801面相を名乗るこの犯人は、用意周到さもあるし、30年前のグリコ森永事件をよく研究している。例えばこの間の脅迫状や犯行声明がネットを使わず郵便というアナログな手段に頼っているのは、明らかに足がつかないようにという考えからだ。10月の2通目の手紙をわざわざ尼崎から投函しているのは、警察が広域捜査に弱いことをグリコ森永事件から学んだのだろう。

ただ、この30年間、警察もバカではないから捜査手法に相当科学技術を取り入れた。グリコ森永事件が今起きたとしたら、恐らく犯人は逮捕されているだろう。今、警視庁がどういう捜査をしているかというと、犯人が出没したと思われる現場の防犯カメラの映像を全部解析しし、複数の現場で重なる人物の映像を絞り込んでいくという方法だ。11月4日の上智大学学園祭も、犯人が犯行に及ばないにしても警察の捜査動向を探るために現場に来ていた可能性はあり、入場者は全員、カメラで撮影されていた。

これまで犯人が立ち寄った場所として確認されているのは、昨年10月の最初の犯行を行った上智大学。そしてもうひとつ有力な決め手として浮上したのがこの10月に毒入り菓子を置いたとされる浦安のセブンイレブンだ。当初、毒物が検出されずに、脅迫は単なる脅しだけと思われたのに犯人が憤って2通目の手紙を書き、実際に菓子を置いた店を明らかにしたのだが、この手紙には他にもいろいろな情報が書かれていた。例えば犯人は毒入り菓子を置いた店の写真を撮影していったことなどだ。あるいはまだ詳しく報道されていないのだが、犯人はこの浦安のセブンイレブンの店以外にも複数の店舗でなんらかの細工をしたことを手紙に書いている。

犯人が明らかにした浦安の店から実際にニコチン入りの菓子が見つかったことは、捜査上大きな意味を持った。つまりその店内外の防犯カメラには確実に犯人が映っている可能性があるということだ。そしてそれを昨年10月の上智大学周辺の映像や、今年11月の上智大学園祭の映像やらと重ね合わせて、警察は絞り込みを行っているわけだ。グリコ森永事件の時は、防犯ビデオの映像を公開して情報提供の呼びかけを行ったが、今回も、もしこのまま犯人が次の動きをやめて、捜査が行き詰れば同じことになる可能性はあると思う。

この捜査は、警視庁の特殊班が行っているのだが、グリコ森永事件から30年間に積み上げた科学捜査の技術が今回の捜査の決め手になるだろう。この間、私も他のマスコミに、犯人は次にどう動くのでしょうと訊かれるのだが、たぶん10月以降の脅迫騒動に対して警察がどう動くか、犯人も見極めているのだと思う。次の犯人の行動いかんでは逮捕へ向けて捜査が大きく動く可能性があるからだ。『創』にこの間届いた手紙を仔細に読むと、犯人は、実際に毒入り菓子をコンビニに置くといった行動に出ると捜査の網が身辺に及ぶ恐れがあることを十分認識している。2通目の手紙には、わしらは命懸けでやっているという表現もある。

警視庁と犯人の攻防戦は、今後どう進展するのか。東京オリンピックを控えて警備力の強さを示さねばならないこともあって、警視庁が威信をかけて捜査を行っていることは確かだ。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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