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“SNS時代”の怖さを思い知らされた星野源さん「不倫デマ」騒動

篠田博之月刊『創』編集長
アミューズ法務部のX(筆者撮影)

何と1億5000万回も表示!?

 最近“SNS時代”の怖さを思い知らされたのが、星野源さん「不倫デマ」騒動だ。

“暴露系インフルエンサー”と言われる滝沢ガレソ氏の5月22日夜のXへの投稿が大騒動になった。「超有名女優とドラマ共演して電撃結婚した男性歌手が、結婚後に今度は番組共演した某NHKアナとW不倫し、今年の元旦に某週刊紙が本件をすっぱ抜く予定だったものの男性歌手の所属事務所が10億円を支払って記事を揉み消した」というものだった。

 投稿では歌手の名前は匿名だが、すぐに「星野源のことでは?」と特定される形で拡散したという。日刊ゲンダイデジタルなどによると、このXの投稿は1億5000万回のインプレッション(表示回数)だったというから大変な勢いで拡散したわけだ。

 これは放置できないと考えたようで、23日午前3時28分に所属事務所のアミューズ法務部がXにこう投稿した。

《滝沢ガレソ氏の投稿に関して

 滝沢ガレソ氏による「超有名女優とドラマ共演して電撃結婚した男性歌手がNHKアナウンサーと不倫をしており、その男性歌手の所属事務所が10億円を払って記事をもみ消した」との趣旨のXでの投稿は当社所属の星野源のことを言っているのではないか、との指摘がインターネット上で出ており、また当社にも多くのお問合わせが寄せられています。

 しかし、星野源に関してそのような事実は一切ありません。

 また、当社が記事をもみ消したという事実も一切ありません。

 当社所属アーティストを名指しし、あるいは名指ししなくても、当社所属アーティストであることが分かるような情報を示して虚偽の事実を摘示、投稿することは名誉毀損その他の違法行為に当たります。また、SNSなどを通じたアーティストに対する誹謗中傷などの違法な投稿、コメント、ダイレクトメッセージ等については、随時、証拠保全をおこなっています。

 名誉毀損などの違法行為については、当社あるいは当該アーティストにて、法的措置を含む対応を検討いたします。

 皆様におかれましては、憶測や虚偽の投稿にくれぐれもお気を付けください。

    株式会社アミューズ 法務部》

星野源、新垣結衣夫妻が揃って否定

 星野さん自身もSNSですぐに否定し、28日深夜のラジオ番組「オールナイトニッポン」で「完全なデマです。このうわさ、臆測に事実は1つもありません」とコメント。また番組に電話出演した妻の新垣結衣さんも否定するという騒動に発展した。 

 当事者の否定コメントを受けてテレビの情報番組もこの話題を取り上げ、騒動は多くの人の知るところとなった。

 週刊誌では『FLASH』や『週刊文春』が騒動の顛末を報じている。

『FLASH』2024年6月11日号(筆者撮影)
『FLASH』2024年6月11日号(筆者撮影)

『週刊文春』6月6日号はこう書いている。「今回投稿された内容は数カ月前にメディア関係者の間で一気に広がった噂。実際に複数の社が取材に動きましたが、ガセだったため、記事にしなかった。ガレソは今さらそんなネタに喰いついた」

 同記事によると滝沢ガレソ氏は274万人のフォロワーを抱えるインフルエンサーだそうで、『週刊文春』は、投稿した滝沢ガレソ氏の正体をつきとめるべく取材したようで、その記事に経歴などを詳述している。また締切前に本人に確認のLINEを送ったところこう返信があったという。

「私の個人情報に関する記事を執筆予定とのことですが、出た場合は即座に法的措置を取るのでよろしくです!」

 この記事は文春オンライン上で公開されている。

https://bunshun.jp/articles/-/71086

 24日配信の「週刊女性PRIME」によると、滝沢ガレソとはモデルの滝沢カレンさんをもじった名前。今回の騒動で滝沢カレンさんもXのトレンドに浮上するなど思わぬとばっちりを受けたという。

当のガレソ氏にも強い風当たり

 これだけの騒動になると当然、ガレソ氏への風当たりも相当なものだったようで、本人は31日、Xにこう投稿した。

《【意識調査】先日投稿した不倫ゴシップについて、えげつない量の批判を頂戴しています。今後の運営方針について皆さんのご意見をお聞かせください!

例・芸能人のゴシップ全般読みたくない 

・そもそも不倫は当事者達の問題だから取り扱うな

・証拠は常に公開しろ

・笑えるニュースだけ取り扱え 等》

 ガレソ氏の最初の投稿の文面を読んでいて、かつての『噂の真相』の1行情報を思い出した。同誌は記事の欄外にいろいろなゴシップを1行で書いていたのだが、書かれた業界関係者などは全く事実と違うと憤慨している人が多かった。しかし、当時は紙の雑誌の情報は今のSNSのように何百万とか1億とかに拡散することはなく、読者の多くが『噂の真相』に裏のとれていないネタが多いこともわかったうえで面白がっているという感じだった。かつ同誌を多くの人が許容したのは、基本的に権威や権力を撃つという同誌の基本姿勢があったからだろう。もちろん書かれた当事者は「許せない!」と本当に憤慨していたが。

本来は革命的なメディアなのだが

 インターネットの怖いところは、情報が媒体の垣根を越えて拡散するので、メディアリテラシーが働きにくいことだ。どこが発信した情報であるかがわからないような形でリポストされ拡散していく。情報を受け取った側は、どの程度ウラがとれているかということや、発信源がどこかということにあまり関心を払わなくなってしまう。

 例えば2016年に相模原事件が発生した直後、某雑誌のウェブサイトに、この事件には闇世界が関わっており、第2の事件がまもなく起こるといった、今思えば「トンでも」な記事が掲載された。事件をちょっと取材している人間ならすぐにガセとわかるものだったが、インパクトあるものだったので、しばらくの間、検索サイトの上位にあがっていた。ガセネタも裏のとれた記事もアクセス数によってランキングされるというのがネット社会のルールだった。さすがに最近はネット社会でもある種のリテラシーが働いて、怪しい情報は淘汰されるようになりつつあるとは思うが。

 インターネットは、市民が自分のメディアを獲得したという、メディアの歴史を画する革命的な道具だが、今回の騒動を見ると、まだそれを使いこなす社会的ルールが確立しておらず、市民社会はそれを正しく使いこなせていないという印象が強い。

 昔だったら例えばゴシップ誌に怪しい情報が載ったとしても、タレント側は騒ぎ立てると逆効果だと黙殺することが多かった。今回の騒動は、放置しておくと拡散して影響は計り知れないと判断したから当事者や事務所が迅速に否定コメントを出して対抗したわけだ。多くの人が何気なくリポストするだけでものすごい範囲に瞬く間に情報が拡散していく。まさにSNS時代ならではだ。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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