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「黒子のバスケ」脅迫犯から私に届いた手紙

篠田博之月刊『創』編集長

『少年ジャンプ』の人気マンガ「黒子のバスケ」をめぐる脅迫騒動についてはもう1年も前からマンガ界で大きな問題になっているが、最近になって事態は新たな局面を迎えた。しかも私のところへ《「創」の篠田編集長へ》と名指しで犯人らしい人物から犯行声明などが送られるという経緯もあり、ここでその内容を紹介することにしよう。

去る10月16日、朝日新聞は社会面に《「店に毒入り菓子」脅迫状》という6段の大きな記事を掲載した。朝日ほど大きな記事ではないが、他紙も「毒入り菓子ばらまく」(産経新聞)などこの件を報道した。玩具つき菓子「ボイコレ 黒子のバスケウエハース2」に毒物を混入したという脅迫状がセブンイレブン・ジャパンなどに届いており、それを受けてセブンイレブンは、15日にその菓子を店頭から撤去した、という報道だった。 

脅迫犯は、セブンイレブンのほかにサークルKサンクスや製造元のバンダイなどにも脅迫状を送っているという。そして、その犯行声明を多くのマスコミにも送っていた。消印は12日から13日にかけてだった。

さらに周到な犯人は、それらの犯行声明を新聞・テレビが報道しない可能性をも考えたらしい。そして各所に送った脅迫状一式を『創』に送り、マスコミが黙殺するならそれらを公表してほしいと依頼してきたのだった。

周知のように、かつてグリコ森永事件の時に、マスコミが報道協定を結んで報道しなかった脅迫事件を『噂の真相』(既に休刊)がすっぱ抜いたことがあり、それをイメージしたのだろう。『創』あての今回の手紙は《「噂の真相」が亡くなった今はもうお前らしかおらへんのや 頼んだで》と結ばれていた。

しかし、実際には『創』にそれが届いた翌日、菓子が店頭から撤去された事態を受けて、全国紙などが報道に踏み切ったのだった。

「黒子のバスケ」の作者に恨みがあるという人物からの脅迫状は、昨年10月以来、その作品に関わりのあるところへ何度か送られていた。「黒子のバスケ」関連イベントの会場などに脅迫状が送られたため、同人誌即売会などのイベントが次々と中止になるという深刻な事態も起きていた。そして今回、脅迫の対象が拡大、コンビニの店頭から関連商品が撤去されるという、さらに深刻な事態が引き起こされたのだった。

マスコミが報道し、騒ぎが大きくなれば、犯人たちの思うつぼで、模倣犯による犯行も予想されることから、新聞・テレビの報道は抑制的だったが、今回、朝日新聞が大きく報じたのは、一般消費者も巻き込む形に騒動が拡大したためだろう。実際に犯行声明とともに送られた菓子から毒物は今のところ検出されていないが、食品の安全に関わるだけに影響の大きさはかなりのものだ。

さて、事件の経緯は今後、月刊『創』で報じていく予定だが、ここで一報を掲げておきたいと思ったのは、犯人からの犯行声明文や、『創』あてのメッセージにいろいろ興味深い部分があったからだ。

犯行声明文によると、この「黒子のバスケ」脅迫騒動が何カ月か動かなかったのは、集英社と交渉をしていたからだという。原文の冒頭はこうだ。《わしは黒子のバスケ脅迫事件の犯人一味の怪人801面相や 長いこと動かなかったのはジャンプ編集部と裏交渉をしとったからや 交渉は決裂したわ 編集部も藤巻も何も分かっとらん 仕方ないから本気で動いてやることにしたわ わしらが本気やというのを見せるためにセブンイレブンに毒入りの食玩を置いたった》

そしてその毒入り菓子を置いたという犯行声明をマスコミに送ったというのだが、どのマスコミに送ったかについてはこう書いていた。《テレビ代表としてNHK 新聞代表として産経 通信社代表として共同に見本のウエハスを送らせてもらうわ。部数百万切り絶賛低迷中の産経を新聞代表として選んだのは「衝撃事件の核心」とかいう記事でやってもらいたいからや 是非とも脅迫状の全文をMSN産経ニュースに載せたってくれや》

犯人は、この3社には、他のマスコミにも送った声明文のほかに見本の菓子を同封したのだった。ちなみにその見本は『創』あての封筒にも入っていた(写真)。

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前述のように犯人は『創』の篠田編集長へ、という独自のメッセージをも一緒に送ってきたのだが、これがなかなか興味深い。例えば、犯行声明文をぜひ掲載してほしいという掲載依頼の後に続くこんな一文だ。《和歌山カレー事件の冤罪支援とか田代まさし擁護に比べたら風当たりも大したことないやろ》。これは『創』をある程度読み込んでいないと書けない文章だ。

『創』あての手紙には「お前のところだけに今回の脅迫で送ったやつは全種類コピーを同封したった」とも書かれている。全種類の原文は相当な量なので、ここでは、その全種類の脅迫文のタイトルのみ紹介しておこう。これによって、どこに脅迫状や犯行声明が送られたかがわかる。脅迫状の差出人名が「怪人801面相」だったり「黒報隊一同」だったりするのは、それぞれグリコ森永事件や赤報隊事件をもじっているためだろう。「挑戦状」が「朝鮮状」となっているのは、赤報隊事件の「反日」批判をもじったものだ。

以下、脅迫状や声明文の宛名を順不同に紹介しよう。

『創』は現在、追跡取材を進めており、次号12月号でもっと詳しい内容を報告するつもりだ。

〔「黒子のバスケ」脅迫状・犯行声明の宛名〕

宣戦布告 集英社の阿呆どもへ

朝鮮状 コンビニの阿呆どもへ

朝鮮状 プロダクションアイジーの阿呆どもへ

朝鮮状 文化放送の阿呆どもへ

朝鮮状 新日本出版の阿呆どもへ

告 ジャンプショップ アニメグッズ店 書店及び業界団体 遊技場及び業界団体

CD店及び業界団体 ゲーム店

告 各展示場施設の運営者

告 上智大学 戸山高校

告 商業施設の運営者

犯行声明 舞浜アンフィシアターへ

バスケットボール協会へ

犯行声明 これが届いた新聞と通信社とテレビ局と週刊誌へ

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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