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酒井宏樹を欠いて挑む、準々決勝NZ戦。代役が期待される橋岡大樹に何ができるか?

清水英斗サッカーライター
東京五輪フランス戦、酒井に代わって出場する橋岡(写真:ロイター/アフロ)

東京五輪サッカー・グループステージ第3戦、男子日本はフランスに4-0で勝利を収め、3連勝でA組を首位通過した。

まさに完勝、である。メキシコ戦の日本は後半に2-0から3点目をねらい続けて、2-1に詰め寄られ、終盤はあわや引き分けかと冷や汗をかきつつも、多少の苦みを含む勝ち点3を得た。しかし、フランス戦はそんなスリルもなく、まさに圧勝。

突破条件として2点差を付けて勝たなければならないフランスに対し、日本は落ち着いてボールを支配。相手がプレッシングに出てきた瞬間、その背後を突く縦パスを入れ、効果的にゲームを組み立てた。そして前半から1点、2点とゴールを重ねるうちに、相手の牙をへし折っていく。リスクマネジメントの効いた、“大人のサッカー”だった。

また、盤石の試合運びを行ったことで、これまで2戦連続フル出場していた久保建英を、前半45分のみで休ませることができたのも大きい。後半途中には遠藤航、堂安律、田中碧もベンチに下がり、多少なりともコンディションに配慮することができた。

非の打ち所がないフランス戦。

ただし、一つだけ困った点を挙げるなら、前半44分に酒井宏樹が通算2枚目のイエローカードを受けてしまい、次戦31日に行われる準々決勝、ニュージーランド戦は出場停止になったことだ。

前半34分に上田綺世のシュートのこぼれ球に詰め、チーム2点目のゴールを挙げたように、酒井の爆発的なオーバーラップは、日本の大きな武器になっていた。

また、それ以上に酒井の1対1の強さは、「落ち着いて見ていられる」と数多の解説者を唸らせてきた。酒井が先陣を切ってデュエルに立ち向かい、その背中を見せて若い味方選手を引っ張るような存在でもあった。その酒井を欠くのは痛い。もちろん、チームに絶対に必要な3人として指名されたオーバーエイジの1人なのだから、欠くのが痛いのは当たり前だが。

ただし、イエローカードをもらう時間帯が早かったのは、不幸中の幸いかもしれない。森保監督は後半10分に酒井をベンチに下げ、代役と見られる橋岡大樹を投入。初出場の選手の慣らし運転を行う余裕があった。

また、橋岡が投入直後に見せたプレーも期待感があった。右サイドの1対1で縦に仕掛け、絶妙なクロス。フリーの旗手怜央はヘディングを外してしまったが、1点モノのチャンスメークだった。

ともすれば、このクロスの精度は、酒井以上かもしれない。浦和時代に攻撃力が課題に挙がった橋岡は、ひたすらクロスの練習に打ち込み、それを武器として仕上げた。今は機械のように正確に、ゴール正面のスイートスポットへクロスを届けられる。

もっともクロスに至るところ、遠いほうの左足で縦へ持ち出し、一瞬の間合いを作ってクロスを上げる流れも、機械のように一緒なので、あまりフランス戦で見せたくなかったような……気がしなくもない。

ニュージーランド戦はどうなる!?

正直、準々決勝でぶつかるニュージーランドはかなり厄介な相手だ。

守備がとにかく堅い。[5-4-1]でガチガチに守り、シュートブロックは身体を投げ出してゴール前を固めてくる。攻撃はプレミアリーグのバーンリー所属、長身FWのクリス・ウッドへロングボールを蹴り、こぼれ球を拾う形だが、シンプルな攻め方が徹底され、精度も高い。セカンドボールが鍵になる。

フランス戦は前掛かりにならざるを得ない相手の心情を利用し、巧みな試合運びを見せた。しかし、その成功はニュージーランド戦では役に立たない。ガチガチに守る相手をどう崩すか、ロングボールにどう対応するか。日本は4-0を忘れ、全く違うゲームプランで臨む必要がある。

思い返せば、グループリーグ3戦でいちばん苦戦したと感じたのは、5バックでガチガチに守られた初戦の南アフリカ戦だった。後半26分の久保のゴールで、どうにか1-0で勝ったが、ニュージーランド戦も同様の展開が予想される。本当に難しい試合になりそうだ。延長戦やPK戦も覚悟しなければならない。相手はキャプテンのDFウィンストン・リードを、ホンジュラス戦の膝の負傷によって欠く可能性が高いが、それでも身体を張った守備は健在だ。

そのニュージーランド戦で、酒井に代わって出場が予想される橋岡は何ができるか。前述したクロスのほか、守備面ではカウンター対応、セットプレー対応が必須になるので、酒井同様に走力と高さを備えた橋岡の活躍は期待される。

楽観的なムードだが……

ところで、フランス戦を放送したフジテレビの試合中継後、スタジオではMC村上信五と田中マルクス闘莉王らのトークがあり、楽しかったが、いちばん最後の闘莉王の一言は気になった。「ちょっと匂いしてきましたね。……まだ早いかもしれないです! これ言ったらアレかもしれないけど! でも戦い方を見てたら……匂いしてきました」と、精一杯自重しながら、ポジティブな感想を語っていた。

わかる。とてもよくわかる。誰もが同意せざるを得ない。だけど、辛口の闘莉王やセルジオ越後でさえ甘口になるほど、今は楽観的なムードになってきた。そこが逆に……ざわざわ…。

前回の記事では、このチームは1点差の勝ちが続いているより、大勝した後のほうが怖いと書いた。今、まさにその怖いタイミングがやって来ている。しかも対戦相手は侮られがちなニュージーランドだ。

中山雄太、遠藤航、田中碧、堂安律、冨安健洋の5人は、ニュージーランド戦でイエローカードを受けると、準決勝が出場停止になってしまう。また、激しい空中戦が予想されるため、吉田麻也らDF陣が、この先の試合に身体的ダメージを残す恐れもある。早めに点を取って、楽に試合を進められたら良いのだが。

しかし、先の皮算用は危険。ニュージーランド戦、まずは全力で勝利を。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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