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五輪2連勝を飾った日本代表のラッキーボーイ。その名は…?

清水英斗サッカーライター
(写真:ロイター/アフロ)

東京五輪グループステージ第2戦、日本はメキシコに2-1で勝利を収め、2連勝でグループ首位に立った。

試合内容は、終盤のドタバタを除けば、ほぼパーフェクト。過去最強の呼び声が高いメキシコを、日本は攻守両面で上回って見せた。第1戦でフランスを4-1で圧倒したメキシコを相手に、まさかこれほどの試合が出来るとは…。世界のサッカーファンも驚いたかもしれないが、何より、日本のサッカーファンが一番驚いている。

日本は攻守共に、周到に準備されていた。それは1点目、2点目のシーンによく表れている。

メキシコはキックオフ直後こそ、激しいインテンシティで日本を飲み込もうとしたが、5分ほど経つと、ミドルゾーンで構える守備に切り替えた。9番エンリ・マルティンはそれほど高い位置から追わず、両ウイングは中へ絞り、コンパクトな陣形を作って日本の縦パスを待ち構える格好になった。

やはり久保建英と堂安律のコンビネーションは、相当警戒されているようだ。南アフリカもそうだったが、対戦相手はこの2人を自由にさせないように、ライン間のスペースをかなり圧縮してくる。この場面、中央に寄って受けようとした堂安も、右SBのエリック・アギーレにぴったりとマークされた。中央はもはや窒息寸前だ。

しかし、それらは日本にとって、“撒き餌”に過ぎなかったのだろう。

前半6分、吉田からパスを受けた酒井が、サイドで前を向く。メキシコは中に絞っているので、縦方向は開けている。酒井がボールを持った瞬間、中央の堂安律が鋭く方向を変え、自分をマークしたSBアギーレの背後へ、急加速してサイドへ飛び出した。

足下と見せかけて、真のねらいは、裏だ。酒井は相手ウイングがスライドしてくる前に素早く縦パスを送り出し、ボールは走る堂安に引き寄せられるように、絶妙な軌道で曲がって行く。堂安はボールを受けると、追走する相手をハンドオフして間合いを作り、ほぼノールックで、マイナス方向へ折り返した。

そこへ飛び込んできたのが、久保だ。ダイナミックなスライディングシュートで、日本は先制に成功した。

中と見せて、外から攻める。足下のコンビネーションと見せて、一発で裏を突く。メキシコの守備を見ながら、日本は巧妙な一撃を繰り出した。この先制ゴールは、相手を見てサッカーをする、その真髄が詰まっていた。

そして2点目、前半11分のPKにつながる場面も見事だった。メキシコがGKからのビルドアップを始めた瞬間、日本は手順が整理されたハイプレスをかけてボールを奪い、ショートカウンターから相馬勇紀が仕掛けて、PKを獲得。堂安が真ん中に決めた。

メキシコの守備を研究した背後への飛び出しといい、メキシコのビルドアップを研究したハイプレスといい、日本は明らかに、戦術分析のじゃんけんで勝っていた。

幸先良く2点を先行した日本は、次第にミドルゾーンで構える時間が長くなったが、守備は安定していた。特に相馬は相手CBへのアタックから、SB中山の背後のカバーまで、超人のような上下動を見せた。南アフリカ戦で露呈したサイドでの守備の失敗を繰り返すことなく、素晴らしいパフォーマンスだった。

日本はパーフェクトな出来だったと思う。

……終盤を迎えるまでは。

終盤の戦い方の賛否

後半20分、日本は運動量の負担が大きかった相馬が、直前の競り合いのダメージも影響したのか、前田大然と交代した。一方、メキシコは23分に退場者を出し、10人で終盤を迎えることになった。

おそらく終盤の日本の戦い方は賛否が分かれる、というか、ほとんど否だろう。

後半34分、日本は堂安に代えて三笘薫、林大地に代えて上田綺世を投入した。彼らは2-0のスコアをキープする意識が薄く、がんがん仕掛けて、がんがんボールを奪われ、行ったり来たりのオープンな試合展開になった。こうなると10人とか11人とか、1人くらいの差はあまり関係が無い。特に三笘はアディショナルタイムに入りかけても、まだ仕掛ける気満々で、味方から「フラッグ!」とコーナー付近での時間稼ぎを指示されるまで、ずっと仕掛け続けていた。

2-0とリードし、相手が1人少なくなったにもかかわらず、なぜか裸の殴り合いを続けた日本。後半40分、フリーキックから1点を返されてしまった。最後はどうにか逃げ切ったが、よもや追いつかれるのではないかと、冷や冷やの終盤だった。

この完璧な試合に似合わない、いかにも大雑把な終盤。いったい、森保監督は何を考えているのか?

その答えは、後半37分の場面にある。GK谷晃生は相手のフリーキックをキャッチすると、そのまま地面に倒れ込んだ。しかし、その刹那、森保監督と思われる声が飛ぶ。

「(前田)大然!」

前田はその豊かなスピードで、思いっきり前線へ走り出していた。GK谷は慌てて起き上がったが、タイミングが遅れ、パントキックはつながらなかった。森保監督と思われる声が飛ぶ。

「(谷)晃生! カウンターあるよ!」

セットプレーをGKがキャッチした瞬間は、カウンターのチャンスだ。それはロシアW杯ベルギー戦、『ロストフの悲劇』で経験したこと。多くの相手を置き去りにして、ロングカウンターを繰り出せる。焦点は、この場面でそれをやるべきかどうかだが、森保監督はGKがゆっくりと時間を使うより、カウンターに出ることを要求した。

森保監督はいったい何を考えていたのか?

答えは明らかである。3点目をねらっていたのだ。時間を稼ぐつもりなどない。少なくとも最終盤までは。そもそも、2-0をキープするつもりなら、投入するのはドリブラーの三笘ではなく、守備でも計算できるユーティリティな三好康児か、旗手怜央だろう。しかし、森保監督は三笘を入れた。それは3点目を奪うためだ。

あと1点を追加すれば、第3戦のフランス戦は2点差の負けでも突破できる。そうなればコンディションを考慮し、主力を休ませやすくなる。メリットは大きい。

それ以上に、今後の戦いのために、怪我上がりの3人、前田、三笘、上田を試合に慣れさせるねらいもあったのではないか。南アフリカ戦で途中出場だった相馬が、メキシコ戦で活躍したように、次は三笘の番かもしれない。金メダルを見据えれば、まだまだ戦いは続く。全員の力が必要になる。チームにも、もっと勢いを付けなければならない。

2-0の状況で、“なぜか”の三笘投入には、森保監督の野心を感じた。金メダルを取るのはこういうチームだ、という信念も。

これは森保ジャパンの流れ?

とはいえ、とはいえ、だ。追いつかれなくて良かった。

理由はどうあれ、危ない橋を渡ったことには変わりがない。森保監督が打った勝負師の一手は、裏目に出た。しかしながら、最終的には飄々と助かっている。

この人、実は「持ってる」のかもしれない。

今大会、起用がハマっている林大地も、元々はバックアップメンバーだった。今となっては絶好調の久保や堂安の力を誰よりも引き出す最高の1トップだが、当初の予定では、彼はTVで試合を見ることになったはず。それが諸々転がって、日本のキープレーヤーになったわけだが、運命のいたずらとしか言いようがない。

南アフリカ戦でも、0-0の膠着をぶち破るために用意した上田と旗手が、直前の久保の先制ゴールにより、1-0の状況で投入することになった。その攻撃的な選手が守備の穴になり、大ピンチを招いている。危なかったが、これもひとまず、事なきを得た。余程、日頃の行いが良いのだろうか。

このチームにラッキーボーイがいるとすれば、それは監督に思える。意外と勝負師で、意外と強気。

そんなこんなで結局、完璧に思えたメキシコ戦も、南アフリカ戦に続き、1点差でギリギリ勝つことになった。思い起こせば、準優勝した2019年アジアカップも、森保ジャパンは準決勝までずっと1点差で勝ち上がった。そして準決勝でイランを3-0で破った途端、決勝でカタールに敗れている。

今回もそのパターンというか、何とも森保監督らしい流れだ。こうなると、1点差で勝つより、大勝した後が怖い。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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