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チャンスの後にピンチあり…五輪スペイン戦は皮肉な幕切れに。1点の差が意味するものは?

清水英斗サッカーライター
五輪準々決勝の日本対スペイン、久保建英(写真:青木紘二/アフロスポーツ)

東京五輪男子サッカー、準決勝の日本対スペインは、0-0のまま90分では勝負が付かず、延長戦へ。2試合連続となるPK戦の様相が強くなったが、延長後半10分、スペインのマルコ・アセンシオが決勝ゴール。日本は0-1で敗れた。

FIFAランク6位と28位。実力差があるのはわかっていたが、日本は最後まで勝利を目指してプレーした。スペインのほうがチャンスは多かったが、日本も決定機をしっかり作った。

むしろ、思った以上に良すぎたのかもしれない。

たとえば、貝のように自陣に閉じこもった最初の30分間の後、日本は敵陣に攻勢をかける時間帯を得た。きっかけは前半34分、中山雄太から久保建英へ、ライン際を走らせた縦パスだ。

久保はドリブルで仕掛けて、右足でシュート。日本はブロックされたこぼれ球にプレスをかけ、ボールを奪い返すと、敵陣でポゼッションを始めた。そこから再び久保が左サイドのハーフスペースから飛び出し、ノールックでマイナス方向へ折り返す。

ここには誰も詰めていなかったが、日本はスペインのクリアボールを拾い、さらに攻撃を続ける。ボールを受けた田中碧の判断は、シュートでも、久保へのダイナミックなサイドチェンジでもなく、消極的なバックパスになってしまったが、そこから最終的には左サイドで久保、旗手を経由し、中山がクロス。ニアサイドに遠藤航が走り込み、スライディングで合わせた。

日本はまだ止まらない。続く展開でもハイプレスをかけ、ボールを奪い、敵陣でもう一度ポゼッションすると、堂安律が倒されてFKを獲得する。単発のカウンターではない、波状攻撃が展開された。この試合の前半では珍しいほど、日本が敵陣に押し込み続けた、大攻勢の3~4分間だった。

ところが、直後の前半39分、逆にスペインのほうに最大の決定機が訪れることになる。

再び守備ブロックを敷いた日本だが、一瞬、前掛かりになった旗手怜央の背後に、DFパウ・トーレスから斜めにクサビが通り、MFミケル・メリノのワンタッチを経て、FWラファ・ミルがフリーで抜け出す。日本はGK谷晃生が鋭くシュートコースを狭め、バランスの良い構えでファインセーブしたが、失点してもおかしくない、前半最大のピンチだった。

サッカーは不思議なもので、良い流れの後には、必ずピンチが訪れる。まるで、決定機を外すと罰を受けるかのように。

情緒的ではなくロジカルに言うなら、攻撃にエネルギーを使った後なので、身体的な回復が追いつかず、立ち位置が取れなくなる。また、気持ち的にも高揚感が勝り、注意深さを欠きがち。そうしたわずかな綻びが、ピンチを招く。

「ピンチはチャンス」とよく言われるが、サッカーは対戦型なので、「チャンスはピンチ」も同じ数だけ訪れる。のっている流れの後こそ、実は危ないのだ。

チャンスの後にピンチあり

延長戦もまさにそうだった。

延長前半から久保と堂安に代えて前田大然、三好康児を投入した日本は、フレッシュさを取り戻し、スペインを敵陣へ押し込む流れを多く作った。延長前半12分、前田がヘディングで決定機を迎え、延長後半7分にも三好がクロスのこぼれ球を、ゴール至近距離から右足でシュートするなど、1点モノの場面もあった。

しかし……悪夢のシーンはその直後に潜む。

延長後半10分、右サイドからミケル・オヤルサバルのドリブルの仕掛けに、田中と中山の2人が釣られた瞬間、中のアセンシオにパスを通され、強烈な左足のシュートを許してしまった。中山は直前の場面で、オヤルサバルが自分に仕掛けてきた印象が強く、アセンシオのマークを捨ててカバーに走ったのだろう。一瞬の隙だった。

それまではシュートブロックやコースの限定が間に合っていた日本だが、この場面は間に合わず。やはり敵陣へ攻め続けた時間帯の後だけに、疲労の色が濃く、注意深さも一瞬途切れ、MFのカバーも間に合わない。チャンスの後にピンチありだった。

アグレッシブに攻勢を強めた延長戦

日本の交代策は、そのほとんどが機能している。

森保監督は後半20分に林大地と旗手怜央に代え、上田綺世と相馬勇紀を投入。そして延長戦の開始時には、前述の通り、久保と堂安を下げ、前田と三好を入れた。前線4人をそっくり入れ替えている。

おそらく、この采配は守備を第一にイメージしたのだろう。PK戦を視野に入れつつ、まずはゼロに抑える。

仮に攻撃の優先度が高ければ、久保はもう少し引っ張ることができたし、前田にしても、攻撃を期待して入れるなら、サイドハーフではなく1トップだ。前田をサイドに入れたということは、攻撃よりも、期待されるのは守備。運動量の負担が大きいサイドハーフを任せたいからだ。実際、前田は守備の指示を受けて投入されることが多い。

前田はメキシコ戦でもフランス戦でも、逃げ切りを図る場面でサイドハーフに投入された。それはスペインとの延長戦も同様だ。PK戦への逃げ切りを図り、前田は堂安に代わって投入された。

ところが、想像以上に彼らのパフォーマンスが良かった。守備要員に留まるプレーではなかった。前田は縦への推進力を見せ、ヘディングで見せ場も作った。三好は機敏な動きで多くのボールに絡み、惜しいシュートを打った。相馬勇紀はサイドから仕掛け、苦しい時間帯に1人で攻撃の形を作った。上田は前線のターゲットになれず、消化不良で終わったが、延長戦はスペインの疲労が濃いこともあり、思った以上に日本が敵陣へ押し込める展開だった。

ところが皮肉にも、彼らのパフォーマンスが良いため、日本は攻勢が強まり、行ったり来たりを繰り返すアグレッシブな流れの中、体力的にも集中力的にも、フラフラのダウン寸前に陥る。その後、決定的な失点が待ち受けていた。

結果論だが、延長戦に入ってから日本がほとんどチャンスを作れず、本当に亀のように閉じこもっていたら、PK戦に持ち込めたかもしれない。代わった選手たちは、驚くほど勇敢に戦った。0-0のままPK戦ならOKだと、正直見ている側は思ったが、1-0で逃げ切りそうな雰囲気すら見せて。

スペインとの実力差は明らかだったが、それを戦い方で乗り越え、がむしゃらに世界に肉迫しようとする日本の姿には感動を覚えた。どう転がってもおかしくない、というところまで、試合を持っていった。「目標は金メダル」は伊達じゃない。

人事を尽くして天命を待った。しかし、最後にひと運、足りなかった。現状でやれることはすべてやったと、久保の言葉がすべてを表している。今後は、その現状をベースアップできるかだ。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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